2020年11月17日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(93)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(93)
 
 次の日、手紙が届いていた。言わずと知れた奈々子である。
『前略ごめんください。山ノ上さん、二郎さん、昨日はごめんなさい。とても恥ずかしい処を見せてしまいましたね。本当にごめんなさいね。私はどうしてあんなに強引になったのか、自分でも分からないんです。この前お会いしたのに、私はとっても欲張りなんです。ですからきのう、会えることを楽しみにしていたのよ。私は二郎さんが、いつ声を掛けてくれるのだろうと、ワクワクしながら体育館でずっと待っていたのよ。でもあなたは、とうとう会いに来てくれませんでした。ウチのチームが勝ち残っていたから、私はチームから離れることができなかったのよ。
 同じ日に、同じ体育館の中に居るのに、そこにあなたが居るのが分かっているのに、会いに来てくれないなんて、私はとても、とてもとても悲しかったのよ。それで、出口の方を見ると、あなたの姿が見えたんです。だから奈々子は精いっぱいあなたを呼んだのに・・・。あなたはこちらを向いて私の顔を見てくれたのに・・・。どうしてあなたは草山さんと一緒に帰ろうとしたのよ。私はとても悔しかった。悔しくて悔しくてたまらなかった。そして気が付いたら走り出していたんです。
 とうとう、あなたに恥をかかせてしまいました。私はなんて馬鹿で卑怯者なんでしょう。あなたにどんなに責められても言い返す言葉がありません。どうかお許しくださいね。本当にすみませんでした。
 でも、もういいんです。もっと大人になります。高校二年生なんだし、泣いてばかりいられないわ。 
 二郎さん、これからも剣道、ガンバッてくださいね。決してあなたのことは忘れません。遠くの方で心からお祈りしています。
 ぜひぜひお元気で。ではさようなら。
山ノ上二郎様               奈々子より 』
手紙を読んでいるうち、目頭が熱くなってきた。これほど奈々子を悲しませていたなんて、考えもしていなかったのだ。試合に二度も勝ってベスト十六になり、決勝トーナーメントまで駒を進めた。それに加えて、真実子が横にいることも手伝って、自分から彼女を避けるような行動を取っていたのだ。今まで色んな物語があったのに、それを自分から放棄してしまうなんて、その上に相手を悲しませるなどとは、およそ人間のする事ではないのだ。自分を恥じた。そして悲しんでいるだろう奈々子の心情を思いやった。
『長岡さん、奈々子さん、ごめんね』心の中で謝った。もうこれから先、奈々子には会えないのかも知れない。

  

つづく


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2020年11月10日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(92)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(92)
 
帰りの汽車の中で言った。
「あのポパイ先生、なにか恐しいこと、考えているのと違うやろか。ボクはそんな気ィがして仕方ないんや」
「そやろか、オレはそう思えへんで。ベスト十六というのは、今のオレらには大変なことなんや。そやから、先生が褒めてくれたんや」
苅川はあっけらかんとして言った。
「アタシは山ノ上さんの方が当たってると思うわよ。あの先生がアタシたちを褒めるのがおかしいのよ。そりゃあ、優勝したんならそれも良いけど、ベスト十六じゃあねえ・・・。まだまだ甘いんやねえ、苅川さん」
真実子の言葉に苅川は憮然となった。
「そんなぁ。オレはそんなに甘ちゃんなんか。キツイことを言うなあ」
「いや、草山さんの言う通りやと思うで。ここに池上さんも居ったら、絶対にそう言うやろなあ・・・。また、背中を叩かれるよ」
「えっ! ホンマかいな、それ。かなわんなあ・・・。池上さんに言わんといてな、頼むで・・・」
苅川は少し慌てて、手を振った。
「けど、あの先生、何を考えてはんのやろか。今でも充分、ええ稽古出来てるのになあ、この上に何があるんやろか。分かれヘんなあ・・・」
「そうよねえ・・・」
いったい、剣持先生はこれから先、どんな事を考え、どのような行動を取ろうとしているのだろうか。


  

つづく


先週6(金)は文化祭でした
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2020年10月27日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(91)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(91)
 
次の日。練習終了後、剣持先生は試合の講評をした。みんなは固くなって耳をそばだてた。
「どうやお前たち、試合に勝ったら嬉しいやろ。今回はクジ運に恵まれたけど、それでもベスト十六に入れたんやから、大したもんや。その成績は評価しておくぞ。この次はベスト八を狙うんや。その次はベスト四、と目標を順番に上げて行くんや。但し、試合はそう都合良く簡単に勝てるワケがない。勝つにはそれだけの練習を積まなければならんのやぞ」
割と普通の表情で、珍しく成績を褒めてくれた。では、あの試合の終了後、苦虫を噛み潰したような怖い顔はいったいなんだったのだろうか。
『どんな文句を言われるのだろうか』と戦々恐々としていた部員たちの顔が急にほころび、ゆるんだ空気が道場に流れた。
 真実子と顔を見合わせたが、お互いにニコリともしなかった。それは、この剣持先生の言葉が気になったからだ。この先生が、そう簡単に人を褒めたりするような人物ではないのだ。今の言葉の裏に何かがあるはずだ、と感じ取ったのだ。先生はさらに言葉を続けた。
「俺がこの学校へ来てから二ヶ月と少しやけど、その間、お前らはよう頑張ったと思う。以前は指導者がおれへんかったのやから、練習を基本から外れて無茶苦茶にやっておった。それは仕方ないこととして、これから先、もっと試合に勝って欲しいと思うのや。それで、俺も考えている事があるよってに、みんな俺に付いて来て欲しいのや。頼んでおくぞ、分かったな」
先生の言葉に全員が
「ハイッ! 分かりました」
と元気に答えた。『そらっ、来たぞ! 』と思った。先生は何か特別に厳しいことを考えているようだ。

  

つづく

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posted by はくすい at 17:05| Comment(0) | 虹のかなた