2019年11月21日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(40)

その二 悲しみと苦しみ(40)
 

「あの先生、無茶苦茶キツイやんか。もういやや・・・。こんなん、毎日続いたら、アタシ、死んでしまうわ。やって行く自信あれへんわ」
恵がポロポロと涙を流しながら真実子に訴えた。
「そうやねえ。最初から、飛ばし過ぎやと思うわね。でも頑張ろう・・・。今までが楽やったんよ。大丈夫、すぐ慣れるわよ。よその学校ではこれぐらい当たり前なのよ。みんなやってるのよ」
真実子が恵にやさしく言った。それでも恵の涙はまだ納まらなかった。
「池上さん、今日は特別よ。特別にキツかったんよ。あの先生、本当はもっとやさしいのよ。そやから、辛抱してね」
美紀が取りなすように言った。
「ウソやっ! どこが優しいのよ。特別なんか、あれへんわ! 」
恵が文句を付けた。それほど苦しかったのか。
「ううん、ホントよ。本当なのよ。実はね・・・」
先生は、六人をランニングに出したあと、美紀と二人で話したのであった。この道場を半年前、二郎がたった一人で整備した事。真実子が尾道から来た事。いじめられていた時、三人の男が助けてくれた事。初めて参加した地区大会でボロ負けになった事、などの一部始終を説明したのであった。
 剣持先生は安田先生から聞いていたそうだが、やはり現在のマネージャーに聞くのが一番良いと思ったのである。
「片山、やったな。これからマネージャーとして頑張って貰わねばならんな。今日は初めての稽古やから、優しくやってもええのやけど、それやったらみんながつけ上がるやろ。そやから、キツイ稽古をしてやるぞ。みんな、びっくりするやろ。どれ程耐えられるか、見たいのや。それでもし、誰かの調子が悪くなったら遠慮せんと、お前が面倒を見てやってくれ。俺に気兼ねせんでもええのやぞ、分かったな。俺は、みんなを強うしてやりたいんや」
『そうか。そうやったんか』心の中でつぶやいた。
『やっぱり、剣持先生は素晴らしいのだ』そう思うと、気持ちが晴れた。
「そやけど、ホンマにえげつない練習やったで。オレは心臓が破裂しそうになったんやで。もうこんな練習なんか、せえへんやろな」
不田が苦しそうに言った。
「片山さんが言うたように、今日は特別やったんや。先生はボクらの体力を試しはったんや。ボクらの稽古は甘かったんやと思う。そやから、地区大会なんかで負けてしもたんや。これから、あの先生に付いて行ったら、この次から試合に勝てるようになれるで」
「そうよ、山ノ上さんの言うとおりよ。みんな、頑張りましょうよ、ねえ」
すぐに真実子が支えた。いつもそうなのだ。そんな彼女が頼もしく思えた。
 

  

つづく


息子のリクエストで超高カロリーの夜食ヲ ぶたの素
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2019年11月19日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(39)

その二 悲しみと苦しみ(39)
 

 やがて校門が見えてきた。道場に辿り着いた六人は、グッタリとしてゼーゼーと荒い息を吐いていた。
「おお、やっと帰って来たか。大分遅かったやないか。たった三キロしかないのに、一時間近くもかかっとるぞ。歩くのと同じくらいのスピードしか出とらん。情けない連中や。しょうがない、今から十分間休憩をやる。十分経(た)ったら基本稽古をやるから、面を着けて整列しておけ、分かったな! 」
先生はそう言い残すと、道場から出て行った。みんなは驚いた。僅か十分間だけの休憩なのだ。仕方なく、思い思いに汗を拭ったり息を整えたりした。そして防具を用意し、体に着けた。
 十分後、時間キッカリに先生は道場に戻って来た。その時、すでにみんなは面を着け、相手を作って待っていた。
「よし、やるか。切り返し、始めッ! 」
号令と共に稽古が始まった。二郎をリーダーとして先頭に立たせ、他の五人が右へ交互に入れ替わる、廻り稽古なのである。今日、先生は防具を持参していないので、号令だけを掛けたのである。それは、部員各人がどれほどの基本が出来ているかを見る、良いチャンスだったのだ。
 廻り稽古は約一時間続いた。基本稽古といえども、続けると恐ろしく体力を消耗する。それに偶数人数なので、休める間がないのだ。二郎、真実子と苅川はどうにか耐えたが、あとの不田、井仲、池上はそうではなかった。
 真っ先に恵が倒れ込んだ。胸が苦しくて息が詰まり、起き上がれなくなった。美紀が駆け寄り、面を外した。美紀に抱えられ、肩でゼーゼーと息を吐いている。真っ赤な顔と、流れる汗が痛々しい。続いて不田と井仲が、ヘナヘナと床に座り込んでしまった。
「なんや、もうアカンのか。根性のない奴らや。ようし、整列! 」
固い表情を崩さずに、号令を掛けた。
「姿勢を正して・・・、面取れっ! 」
「オウッ! 」
面を取った。みんな顔が真っ赤で、頭から湯気が立っている。
「今日は初めての練習やったから、みんなキツかったと思う。これぐらいの練習が普通となった時、お前たちは強くなっているやろ。それまで、俺にしっかりと付いて来い。分かったな! 」
「ハイッ! 」
先生と対面して礼の後、練習は終わり解散となった。

  

つづく

学校横の公園もすっかり色づいて・・・
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posted by はくすい at 15:30| Comment(0) | 虹のかなた

2019年11月14日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(38)

その二 悲しみと苦しみ(38)
 

走りながら地図を見ると、ランニングのコースが克明に書かれてある。校門を抜けて、海の方へ矢印が付いている。浜辺を長く通って、今度は山側へ入って行くようだ。古い街道を峠近くまで登り、次は反対側の小径を下るようになっている。最後は川の堤の上だ。剣持先生は赴任早々、ランニングのコースまで研究していたのだ。なんという、用意周到であることか。
「オイ、えらいことになったなぁ。オレは走るのが苦手なんや」
井仲が口を開いた。不足を言っているのではないが、どう聞いても不足にしか聞こえない。
「ナニ言ってるのよ。これも練習のうちよ。文句を言わないで走りましょ」
息を弾ませながら真実子が言った。
「アタシも走るのが苦手なんよ。しんどいわ。ちょっとぐらい休んでも、かめへんやろ・・・」
苦しそうな顔で恵が言った。額に汗が溢れている。
「休んだらアカン。ゆっくりでもええから、息を調えて走るんや。初めてやから、余計にシンドイんやで。池上さん、ゆっくりでええからな」
恵は頷いた。外(ほか)の連中の顔も随分と苦しそうだ。
 海岸の砂浜は不安定で走りにくい。足腰に異常な力が加わるので、グラグラとなる。みんなは砂に足を取られ、何度も転んだ。靴の中に砂が入り、素足の裏が痛くてたまらない。何度も靴を脱いで、中の砂を出した。峠への登りになると、余計に息が苦しくなった。
「なんで、走らなあかんのや。これが剣道の練習になるんかいな」
不田が不平を口にした。
「アタシもそう思うわ。シンドイばっかりやんか! 」
恵が文句を言った。走るのが気に食わないのだ。
「なんでも走ることから始まるんや。ボクらが走らなんだだけなんや。ゼッタイにええ練習になるんやで。そやから辛抱して走ろうや」
「そうよ、足腰を鍛えるのに良いのよ。アタシも尾道では良く走ったのよ」
真実子が口を添えた。そうなると誰も不平を言えなくなった。峠からの下り道になると、自然にスピードが上がり、膝がガクガクとなった。
「ヒエーッ! こりゃあたまらん! 」
苅川が悲鳴を挙げた。そして斜面に滑って尻餅をついた。
「もっとゆっくりでええねん。ゆっくりや! 」
大声で怒鳴った。全員で小刻みに歩調を合わせて、ゆっくりと坂を下った。やがて平地となり、川の堤防に差し掛かった。後方から野球部の連中が走って来た。その足並みは余程早いのである。そして、見事に追越されてしまった。追い越しざまに二郎たちを見て、ニヤニヤと侮蔑(ぶべつ)するように笑った。
「あいつら、いやに早いな。なんであんなに早いんや。オレらは亀なんか」
苅川が腹立ち紛れのように、ボソッと言った。
「あの人たちは毎日走ってるのよ。アタシたちは今日が初めてなんやもの、仕方がないわよ」
真実子がキッチリと釘を刺した。

  

つづく

秋の味覚『銀杏』大好物です❣
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posted by はくすい at 15:25| Comment(0) | 虹のかなた