2020年06月11日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(75)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(75)
 
病院を出たあと、土佐堀から市電で大阪駅前まで行った。地下街を通り、大阪駅の中央コンコースへ行った。鉄道案内所で時刻表を開いてみると、天王寺発十五時三十三分に和歌山以南への直通列車があるのが判明した。
「この列車に乗れば良いのやわ」
そう思った。
 奈々子は教えられた通りに歩き、湊町駅から電車に乗った。今宮駅を過ぎると、すぐに次の天王寺駅に着いた。ホームにある案内表示に従って階段を登り、紀勢西線直通のホームへ行った。今、時刻は十五時二十三分である。
 列車がホームに入って来た。場内放送によると、この列車は奈々子の町を通って、東端の新鹿(あたしか)まで行く直通列車である。これに乗れば家に帰れるのだと思うと、なんだか嬉しくなって乗り込んだ。到着する駅のことを考えて、機関車のすぐ後ろの一号車に席を取った。

 真実子は急いでいた。城東線で天王寺駅まで来たのは良かったが、不案内なので広い構内で迷ったのだ。階段を上がったり下がったりしている間に、時間が過ぎた。腕時計を見ると、すでに十五時三十分を過ぎていた。
 バッグを抱えて階段を駆け上がった。そして発車のベルが鳴り始めた時、やっと最後尾の車両に乗車出来たのである。
「あーっ、しんどっ! 」
大きく溜息をついた。やがて列車は汽笛を鳴らして動き出した。それぞれの思いを乗せた列車は、南へと走った。同じ列車に乗り合わせていながら、真実子と奈々子は、最後まで顔を合わせなかったのだ。

 「実はね、山ノ上さん・・・」
真実子は大阪での出来事を話した。両親の現況を報告したのだ。ただ一つだけ、奈々子の件は決して口にしなかった。気持ちを奈々子の方に向かせてはならないのだ。絶対に! 
 横に苅川が居るのは、百も承知の上である。彼の耳に入れておけば、全体に伝わるのを知っていたから、敢えてそうしたのだ。みんなは二郎の祖父の葬儀は知っているだろうが、両親が共に入院している事実は知らない筈である。彼一人の苦労を、知っていて欲しいと思ったのだ。真実子の話を聞いて驚き、そして喜んだ。
「そうか。わざわざ大阪へ行ってくれたんやね。おおきに。ホンマに申し訳ないわ。けど、二人共そんなに良くなってるんやったら、ボクは見舞いに行かんでもええやろ」
身勝手なことを言い出した。
「ナニを言ってるのよ! アタシには関係ないのよ。二郎さんは小父さんたちの子供でしょ。その子供が、見舞いに行かないでどうすんのよ! そんな親不孝をするんやったら、アタシが許さへんわよっ! 」
ピシャリと叱った。
「ウヘッ! これはえらいことを言うてしもた。アカン」
と舌を出した。これほどまでに、キツく言われるとは思ってなかった。
「そうか・・・。両親二人とも入院してるんか、それは大変なことやなあ。オレやったら、三日も持たんとギブアップや。どないもでけへん」
苅川がさも感心したように言った。
「大丈夫や。伯父さん家(ち)に世話になってるから平気や。あとはナンとでもなるもんやで、そんなもんや」
「そうかなあ・・・。オレには理解出来ん」
自信あり気な言葉に、苅川はうかない顔で答えた。

 
  

つづく

ヤングコーンの3倍の大きさフルーツコーン❣
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posted by はくすい at 13:36| Comment(0) | 虹のかなた

2020年06月09日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(74)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(74)
 
一方、真実子は里子としばらく話し合っていたが、医師の回診があったので病院を辞したのだった。今日は一人なので、行く宛もない。
「そうだ、小父さんの所へ寄って行こう」
半月前に二郎と訪れたばかりだが、再び行っても悪いはずはないのだ。
 道を尋ねながら、地下鉄の本町駅まで歩いた。地下鉄に乗り、淀屋橋まで行った。地上に出ると、先日行った市役所と広い御堂筋が見えた。少しばかり懐かしい気持ちになりながら、市電の停留所へ向かった。大阪港行きの路面電車はすぐに来た。少し走ると右手に堂島川が望め、風景も良くなって気分は爽快であった。ものの十分も経たないで土佐堀の停留所に着いた。そこから病院まで、迷うはずもなかった。
 トコトコと階段を登り、病室に入って武二郎のベッドに近付くと
「小父さん。こんにちは! 」
明るく声を掛けた。見ると、武二郎はこの前と違ってベッドに腰を掛けていた。両足に巻いた包帯が痛々しいが、ベッドの上でなく、横に腰を掛けていたのだ。これには驚かされたのであった。
「おう! 真実子ちゃんやないか。今日はいったいどうしたん? 二郎と一緒じゃないのか? 」
突然の来客に驚き、里子と同じ質問をした。それを聞いてプッと苦笑した。
『仲の良い夫婦なんやねえ。同じことを言ってるワ』そう思った。
「小父さん、ごめんなさいね。二郎さん、今日はアルバイトなんですよ。さっき、小母さんの所へ行って来たんです」
真実子は正直に答えた。
「そうか、それはスマンな。わざわざ来て貰うて・・・。あいつも無理をしたさかいな。よう頑張ったんや。けどな、よう見てや。ホラ、ちょっとだけ歩けるようになったんやで。そやから、ここに腰掛けてるやろ! 」
嬉しそうに顔をゆるめながら、真実子に横の松葉杖を指した。
「えっ! そうなんですか・・・。それは良かったですねえ」
彼女は驚いた。ついこの前までは立つことさえ出来なかったのに、今日は松葉杖を使って少しでも歩けるなんて、たいした進歩である。
「ちょっとづつ歩く訓練をしてるんや。あの、リハビリとか言うやつやな」
「小父さん、今日は来てよかったワ。アタシ、とっても嬉しいのよ・・・。早く帰って、二郎さんにちゃんと報告しますわね」
真実子は手が震えるほど嬉しかったのだ。一刻でも早く、二郎に伝えなければならない、と思った。
「小父さん、アタシ、もう帰ります」
その言葉に武二郎は驚いた。
「えっ! いま来たばっかりやのに、もう帰るんか? 」
「ハイッ。今日、アタシが見たこと、二郎さんに全部お話します。だからごめんなさいね。お茶も入れないで」
彼女は嬉しさを隠し切れなくなって、小刻みに体を動かしながら言った。
「そうか、それはスマンな・・・。二郎に宜しく言うておいてな」
「ハイ、ありがとうございます。それでは失礼します」
真実子は深々と頭を下げた。

 
  

つづく

昨年は刈られて見れませんでしたが、今年は見事に❣
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posted by はくすい at 16:02| Comment(0) | 虹のかなた

2020年06月04日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(73)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(73)
 
奈々子は病院を出てから、宛もなく大阪の街を歩いていた。もう東も西も分からない。悲しくて悔しくて、胸が張り裂けそうであった。真実子が二郎の家の隣に住んでいるなんて、考えたこともなかった。そんなことが本当にあるなんて、信じられなかった。
『アタシは、二郎さんと映画に行ったのよ。食事も一緒にしたし、手を繋いで海岸を歩いたこともあるのよ。二郎さんの家で、二人並んでアルバムも見たのよ。ついこの間は、海岸で口づけまでした仲なのよ・・・』色んな思いが交錯し、脳裏を駆けめぐった。これから先、どうすれば良いのだろうか。自分は二郎さんに嫌われるかも知れない・・・、などとクヨクヨと考えた。
 前も見ず、下を向きながら歩いているので、何度か人に突き当たった。その度に、頭を下げて謝らなければならなかった。突然、目の前にトラックが急停車し、『ブワーッ』とクラクションが鳴った。ハッとして立ち止まると
「このアホンダラッ! 気ィつけんかいっ! ドアホッ! 」
大声で罵声を浴びせかけられた。目の前の、歩道の信号が赤になっているのに気付かずに、一人だけフラフラと前へ出ていたのだ。
 一時間以上も歩いただろうか。ふと立ち止まってあたりを見回すと、そこは以前にどこかで見た風景であった。
「アッ! そうや! ここは、道頓堀やわ! 」
 浜大阪病院から、どこをどう通ってきたのか、足元ばかりを見ながら歩いて来たので、全く覚えていないのだ。
 我に帰ると空腹に気付き、お腹がグルグルと鳴った。食事をしたいと思ったのだが、どこのお店へ入れば良いのか分からない。
 向こうの方に、ピエロの人形が立っているお店が目についた。多くの家族連れが出入りしているようなので、そこへ入った。人並みに押されるようにして二階へ上がってしまった。カウンターの前に一つの空席があったので、仕方なく腰を掛けた。注文に迷っている時、お茶を運んできた女店員が
「今日は、『まむしの上』がサービスですねん。美味(おい)しいでっせ」
と勧めたくれたので、何も考えずにそれを注文した。
 奇遇にも奈々子は何も知らないで、日こそ違え、真美子と同じ店で同じ料理を食べたのである。
 空腹が満たされると、今まで重く沈んでいた気分が何故だか急にスッキリと晴れて来た。満腹感が、それまでの暗い気分を変えたのだ。
「そうやわ。折角、ミナミへ来たんやから、法善寺へ寄って帰ろう」
お茶を飲みながら考えた。会計の女性に法善寺までの道を尋ねると、すぐ近くだと分かった。
 店を出ると、見えていなかったモノがやっと目に入ってきた。やはりミナミは、若い人の溢れる繁華街であった。教えられた通りに歩けば、法善寺はすぐそこであった。
「ここは縁結びで有名やから、良くお参りをしておこう」
お寺からお線香を買い、火を着けて奉納した。そして、水かけ不動尊に柄杓で何杯も水を浴びせた。そして深々とお参りしたのであった。
『二郎さんとのこと、ぜひ宜しくお願いします』心からの願いであった。
「あのう、すみません。天王寺の駅へ行きたいんですけど・・・」
お寺の人に帰る道順を尋ねた。
「ここをまっすぐに行ったらええねん。広い道を右に行ったらな、国鉄の湊町駅に行けるで。電車に乗ったら、天王寺はすぐやで」
親切に教えてくれた。大阪の人たちは、やさしい人が多いのだろうか。

  

つづく

今度はシメジ❣
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posted by はくすい at 12:23| Comment(0) | 虹のかなた