2020年04月07日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(64)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(64)
 
夜遅く母が帰ってきた。もう、午前の零時を廻っている。
「二郎ちゃん、ただいま。遅くなってごめんね。これでも、精一杯早く帰ってきたつもりなんよ。大阪は遠いわねえ」
「お母はん、お帰り。大変やったやろ・・・」
「そんなことないわよ。平気やわ、これぐらい」
母親の顔を見て、『オヤ? 』と気付いた。
 ついこの前、大阪で会った時とは、まるで様子が違うのだ。相当に疲れが溜っているように見えた。勿論、父親の死に直面しているのだし、暗い電球の下だから余計にそう見えるのかも知れない。だけど、顔色は悪いし、表情は固く重苦しい。急に顔のシワが増えたようだ。たった十日足らずの間に、これ程までも変わるものなのだろうか。
「お父さんがねえ、大変悔しがってはるのよ。まだ歩かれへんよってに、お義父(とう)さんの葬式に出られへん。こんな悔しいことはないって・・・」
里子が溜息まじりに言った。その声が妙に沈んでいる。いつものあの快活さは、まるで見えないのだ。
「なにか、悪いことが起こらなければ良いが・・・」
ふと、不安な気持ちになった。

  

つづく


明日の入学式は緊急事態宣言で中止↷飾るはずだったお花を分けて頂きました。
IMG_6028[1].JPG
posted by はくすい at 15:59| Comment(0) | 虹のかなた

2020年03月31日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(63)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(63)
 
 病院に駆けつけた時、祖父はすでに息を引き取っていた。伯父の恵介一家は勿論、親戚が数名ベッドの横に集まっていた。
「おじいちゃん・・・」
叫ぶ目から涙が溢れた。先日、ここで祖父と言葉を交わしたのが最後であった。昨年の六月以来、祖父にはお世話になり通しであった。今、こうして剣道が出来ているのは、公介の助力の賜物なのである。
「あ、二郎ちゃん、来てくれたのねえ。おじいちゃん、とうとう逝きはったワ・・・。お母さんにも連絡が付いてね、今夜、遅うなるけど帰ってるって言うてたよ」
伯母の由美が言った。娘の恵美子がそばに寄ってきた。
「お兄いやん・・・。おじいちゃん、死んでしもたんや・・・」
腕にしがみつき『ワーッ』と声を挙げて泣き出した。
「そうやで・・・。おじいちゃんはもう、居たはれへんのやで・・・」
ポロポロと涙をこぼした。もうあの豪快な笑顔は見られないのだ。そう思うと余計に悲しかった。

  

つづく


学校の桜も満開近し^^
IMG_6013[1].JPG
posted by はくすい at 15:14| Comment(0) | 虹のかなた

2020年03月24日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(62)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(62)
 
「よいか、お前たちには技の幅というものがない。もっと色々な技を遣わなければ、試合には勝てんのやぞ。中学生と違うて高校生なんやから、体力もあるし、瞬発力もいっぱいあるんや。それを上手に遣わなアカンのやぞ。分かったか! 」
「ハイッ! 分かりました! 」
剣持先生は多彩な技を披露し、その遣い方を教えてくれた。特に先生の、胴を打つ技は素晴らしいものだった。このような種々の技を駆使できるようになれば、試合で勝てるかも知れないと思った。だがそれ迄は、相当の訓練が必要であろう。
その時、道場の入口から、安田先生があたふたと入って来た。
「山ノ上。山ノ上は居るか! 」
何事か、ひどく慌てている様子である。
「ハイッ。ここに居ります」
練習の手を止め、面を着けたまま安田先生の前へ進み出た。
「おう、山ノ上。今、電話があってな、おじいさんが危篤やと言うて来たんや。早く帰ってやれっ! 」
「えっ! おじいちゃんがっ! 」
と絶句した。やっぱり心配していた、その時が来たのか。
 剣持先生の方へ顔を向けると、先生は、腕組みをしたまま固い表情で『うん』と頷いた。そして顎を右に振って『早く帰ってやれ』と言う合図を送った。その場で礼をして輪から離れた。防具を外すのももどかしく、その場に置いた。真実子が駆け寄り
「アタシが片付けておくから、早く帰ってあげて! 」
その言葉に片手を挙げて会釈し、手早く着替えて足早に道場を出た。 
 
  

つづく

花冷えの二次願書受付です
IMG_5990[1].JPG
posted by はくすい at 14:23| Comment(0) | 虹のかなた