2020年08月25日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(84)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(84)
 
 明くる日。いつもより二列車早く出掛けた。
道場へ入ると、東側の窓から朝日が射し込んでいて、とても清々しい。
「やっぱり、これや! 」
そう決心した。そして計算をしてみた。朝の一番か二番の汽車に乗ると、六時三十分迄には部員が集合出来る筈だ。それから授業開始の八時二十分迄、二時間弱の時間が取れるのだ。その内一時間強を練習に当てれば良い。あと十日間、とにかく頑張るしかない。
 昼の休憩時間。食事を終えると、教員室に剣持先生を訪ねた。
「先生。来週の一週間、早朝練習をしたいんです。全国大会予選の前の日までやりたいんです。どうか、許可をお願いします」
「そうか、朝練をするか。それはええけど、授業中に居眠りをしたらアカンぞ! そんな事をしたら、顧問の俺の恥やからな」
「ハイ、大丈夫です。みんなに言います。居眠りなんかさせません」
「そうか、本当やな。それやったら許可をしよう。よし、校長には俺から言っておいてやるよ」
剣持先生はニコニコとしながら言った。誰が名付けたニックネームか知らないが、ホント、ポパイにそっくりだ。
「ありがとうございます」
先生に礼をすると道場へ行った。すでに一年生たちが雑巾掛けをしていた。真実子に早朝練習のことを、短かく話した。
 礼のあと、部員たちに言った。
「来週の月曜日から予選までの一週間、早朝練習をやろうと思います。この中で一番遠いのは苅川君やから、それに合わせて時間を決めたんです。道場へ朝六時半に集合してください。すぐに練習を始めて、八時過ぎまでに終るようにしますので、授業に遅れないようにしてください」
言い終るか、終らないうちに声がした。
「部長! そんなん、困りますで。急に明後日(あさって)から朝練すると言うたって、そんなん、無茶やで! 」
「そうや! 急に言うたらアカン。そんなこと、誰が決めたんや! 」
思い掛けない反撃を受けた。予選に向けて、素直に従ってくれると思ったのに、大きな手違いとなってしまった。
「朝練は、ボクと剣持先生とで考えたんや。予選まで、時間がないから仕方ないんや。それはみんなも知ってる筈やから、そう決めたんや」
部員たちがザワザワと声を立てた。
「朝練をするのがいやや、と言うてるんと違うんや。なんでもっと早よう、相談してくれへんかったんや。急に決められたら困るんや」
井仲が大きな声で叫んだ。部員たちは先程より喧しくなった。苅川が何かを言いたそうな顔をしているが、勢いに押されて黙っている。
「スマン! もっと早うに相談したら良かったんやけど、こうなったんや。ボクの責任や。そやから謝るよってに、明後日(あさって)から頑張って欲しいんや」
両手を付いて謝った。だが騒ぎは納りそうにない。その時
「みんな! 聞いて頂戴! 部長が謝ってるやないの! 」
凛とした声が道場に響き渡った。それは真実子であった。彼女は列の端から急ぎ足で二郎の横に立った。急に全員がシンと静まりかえった。
「みんな、頑張りましょうよっ! 朝練はたったの一週間だけなのよ。全国大会の予選で、一回でも勝ちたいとは思わへんの? 都合が悪いなんて言わないでやりましょうよっ! アタシは必ずやるわよ! 」
真実子は大きく手を振り、動作を激しくして、みんなに訴えた。
「そやっ! みんな、文句を言わんと頑張ろうや! 」
黙っていた苅川が、待っていたとばかりに叫んだ。そして立ち上がり
「オレが一番遠いんやで! そのオレが、やろうと言うんやから、みんな、文句ないやろ。やろうぜ! 」
と言った。一瞬静かだった道場が、再びザワついた。
「よっしゃ! 分かった。一週間やな、それがええ。やったろやないか! 」
先程、文句を付けた井仲が大きな声で言った。
「そんならすぐに練習や。さあ、みんな立てよ、やろうぜ! 」
スックと立ち上がり、部員たちを促した。
 全員が用意を始めた時、剣持先生は丁度入口の外に来ていたのだが、中が騒がしいので様子を伺っていたのだ。そして問題の一部始終を聞き、結果を確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。そして黙って帰って行った。
 
  



A43朝倉氏より頂いた茄子❣
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つけ麺のダシ汁に使わせて頂きました^^
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posted by はくすい at 14:40| Comment(0) | 虹のかなた

2020年08月18日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(83)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(83)
 
汽車の中で、兄のことを考えた。七才年上だから現在は二十三才である。その若さで家庭を築き妻子を養うのは、大変だろうと思った。東京は、大阪より暮らし易いのだろうか。立派な背広姿だったし、特急『つばめ』で往復するのだから、経済的に恵まれているかも知れない。それに、明るくて朗らかな性格らしいので、悪い気はしなかった。
 兄に会えたのは、父母が共に入院という不幸な出来事の結果なのだ。これが反対に、父母が健康ならば、何時会えるのか、それは疑問である。不幸な出来事でも、その裏には良い事もあると言う証明なのだろうか。
  
 中間考査が始まった二日後、母の退院を知った。けれども、母は大阪に残り、父が仕事に復帰する迄滞在するのであった。
 下校時、駅で真実子に会った。
「もうすぐ全国大会の予選やなあ。何とか二回戦ぐらいは勝ちたいなあ」
「そうねえ。この前は一回、勝てただけやもんねえ・・・」
予選へのエントリーは、もうすでにマネージャーの美紀が終えていた。
「もっと、練習せなあかんのやけど・・・。時間がないなあ・・・」
試合に勝つには、なんとしてでも練習を数多く積まねばならない。
「どうしょう・・・」
しばらく考えた。会話が途切れて黙ったが、やがて
「朝練・・・、しようか」
真実子がポツリと言った。まるで心中を見透かしている様だ。
『そうや、それしかない! 』と思ったが、すぐに返事をしなかった。
 バスの中でも考えていた。早朝練習をするとなると、通学の問題がある。一番遠いのは苅川だ。五保市までの臨港鉄道の便があるのか心配だし、その他の部員たちの都合も考えなければならない。
「草山さん。朝練のこと、よう言うてくれたよ。おおきに。ボク、良く考えてみるよ。せめて一週間でも出来たらええなあ」
別れ際、真実子に言った。
「そうねえ、頑張りましょうね」
そう言うと、真実子は片目を閉じてウインクをした。

  


お盆休み前のセールでGet!した鮎❣一尾50円わーい(嬉しい顔)
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posted by はくすい at 14:31| Comment(0) | 虹のかなた

2020年08月06日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(82)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(82)
 
しばらくして、二人は病院へ戻った。
「この前ねえ、長岡さんと言う女の子が、見舞いに来てくれたんよ」
母の言葉に驚いた。
「えっ! 長岡さんが? なんでお母はんのこと、知ってたんやろ・・・」
母の入院は、奈々子には知り得えない筈なのに、どうして分かったのであろうか、とても不思議であった。
「それでねえ・・・、草山さんと、ここで顔を合わせたのよ。二人共、びっくりしてたわよ」
「ええっ! ここで二人が? そら、えらいこっちゃ! 草山さん、そんなことナンにも言わへんかったのに・・・」
ここで二人がハチ合わせになったのならば、母を前にして、どんな場面になったのか。お互いに興奮しただろう。以前、体育館で二人が向かい合った時の姿を思い出したが、それ以後の展開が頭の中には浮かんでこなかった。
「へえーっ! 君は結構、女の子にモテるんだ。感心しちゃうよ」
一朗が横から口を挟んだが、耳には入らなかった。
「それでどうなったん? その二人はモメへんかった? 」
咳き込むように、母に質問した。
「ううん、長岡さんはすぐに帰ったわよ。二人は殆ど話はしなかったわよ。あの長岡さんって娘(こ)、良い娘さんやね。アタシは暫く話してみたけどね、アタシを心配して来てくれるなんて、娘さん一人では仲々出来ないことよ」
「そうか・・・、すぐ帰ったんか。それで良かったんや・・・」
安堵した。そして『フウ・・・』と溜息を吐いた。二人の間に何事もなくて良かったのだ。
「ボク、もう帰るけど、お兄はんはどうするんや? 」
一朗に顔を向けて言った。
「ボクかい? 今夜は大阪で泊るんだ。明日の『つばめ』に乗るんだから、ゆっくり出来るんだよ。君は気を付けて帰ったらいい」
「うん、おおきに。さっきはご馳走さんでした。じゃあ、さいなら」
ペコリと頭を下げると、病室から出て行った。
 
  

つづく


時間差でうな丼❣(一応国産の朝開き炭焼きです)
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posted by はくすい at 13:58| Comment(0) | 虹のかなた