2020年04月09日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(65)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(65)
 
咲丘公介の葬儀は、町の中程にある寺で行われた。沢山の人々が会葬に訪ずれ、狭い寺の境内は黒一色で埋め尽くされたのであった。
 斎場への送りを済ませると、里子は言葉少なく、何かに惹かれるようにして大阪への汽車に乗った。
「お母はん、元気でな。無理をせんと、体には気ィ付けるんやで」
窓から見える母に、手を振りながら言った。
「おおきに。お母さんの体は丈夫やから、心配せんでもええのよ」
母はニッコリと笑ったつもりだろうが、その顔の表情は固く強ばったままだった。動き始めた汽車を見送りながら、
「ホンマに、大丈夫なんやろか・・・」
一抹の不安が胸中をよぎった。
 「山ノ上さん、大変ね・・・。おじいさんは亡くなったし、ご両親は大阪やし、一人で何もかもやってるんやから、気が休む暇がないでしょう? 体が疲れているのとちがう? 大丈夫なの?」
帰りのバスの中で、真実子が眉をひそめて言った。それほど二郎が心配なのだ。家が隣だとはいえ、手が出せない彼女は気掛かりなのである。
「うん、おおきに。ボクはそんなん平気や、なんともあれへん。あさっては練習試合や。出島商業には負けへんでェ。こっちには剣持先生から習った技があるもんな。草山さんも、頑張ってや」
「うん・・・。けど、山ノ上さんは気が強いわねえ。こんな時でも、練習試合のことを考えているなんて」
「気が強いのとは違うよ。問題が別やから、別々に考えてるだけや」
「そう・・・。それやったら、アタシも頑張る。出島商業に勝ってやるわ」
「そうそう、その意気やで」
バスを降りてから、真実子を家まで送った。自分は伯父宅まで食事に行くからである。家の前で立ち止まり、彼は
「草山さん。色々とありがとう」
そう言って右手を差し出した。真実子は恥かしそうに握手をした。
「さよなら」
「おやすみなさい」
家の門灯が、ほんのりと光っていた。

  

つづく


緊急事態宣言で時間が止まっていますが、季節は春です
IMG_6032[1].JPG


タラの芽の天麩羅❣
IMG_6034[1].JPG
posted by はくすい at 15:31| Comment(0) | 虹のかなた

2020年04月07日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(64)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(64)
 
夜遅く母が帰ってきた。もう、午前の零時を廻っている。
「二郎ちゃん、ただいま。遅くなってごめんね。これでも、精一杯早く帰ってきたつもりなんよ。大阪は遠いわねえ」
「お母はん、お帰り。大変やったやろ・・・」
「そんなことないわよ。平気やわ、これぐらい」
母親の顔を見て、『オヤ? 』と気付いた。
 ついこの前、大阪で会った時とは、まるで様子が違うのだ。相当に疲れが溜っているように見えた。勿論、父親の死に直面しているのだし、暗い電球の下だから余計にそう見えるのかも知れない。だけど、顔色は悪いし、表情は固く重苦しい。急に顔のシワが増えたようだ。たった十日足らずの間に、これ程までも変わるものなのだろうか。
「お父さんがねえ、大変悔しがってはるのよ。まだ歩かれへんよってに、お義父(とう)さんの葬式に出られへん。こんな悔しいことはないって・・・」
里子が溜息まじりに言った。その声が妙に沈んでいる。いつものあの快活さは、まるで見えないのだ。
「なにか、悪いことが起こらなければ良いが・・・」
ふと、不安な気持ちになった。

  

つづく


明日の入学式は緊急事態宣言で中止↷飾るはずだったお花を分けて頂きました。
IMG_6028[1].JPG
posted by はくすい at 15:59| Comment(0) | 虹のかなた

2020年03月31日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(63)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(63)
 
 病院に駆けつけた時、祖父はすでに息を引き取っていた。伯父の恵介一家は勿論、親戚が数名ベッドの横に集まっていた。
「おじいちゃん・・・」
叫ぶ目から涙が溢れた。先日、ここで祖父と言葉を交わしたのが最後であった。昨年の六月以来、祖父にはお世話になり通しであった。今、こうして剣道が出来ているのは、公介の助力の賜物なのである。
「あ、二郎ちゃん、来てくれたのねえ。おじいちゃん、とうとう逝きはったワ・・・。お母さんにも連絡が付いてね、今夜、遅うなるけど帰ってるって言うてたよ」
伯母の由美が言った。娘の恵美子がそばに寄ってきた。
「お兄いやん・・・。おじいちゃん、死んでしもたんや・・・」
腕にしがみつき『ワーッ』と声を挙げて泣き出した。
「そうやで・・・。おじいちゃんはもう、居たはれへんのやで・・・」
ポロポロと涙をこぼした。もうあの豪快な笑顔は見られないのだ。そう思うと余計に悲しかった。

  

つづく


学校の桜も満開近し^^
IMG_6013[1].JPG
posted by はくすい at 15:14| Comment(0) | 虹のかなた