2019年02月14日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(99)

その一 異郷の空へ(99)
 

それぞれに校門を出たのだが、駅までの道を歩いて行くうち、自然と一つのかたまりになっていた。
「みんな! 今日はナ、俺が奢るからな、そこまで一緒に行こうや! 」
二年生の浦山実が大声で言った。
「行くって、どこへ行くんですか? 」
怪訝な顔で井仲が尋ねた。
「おう井仲。お前、駅前に甘党の店があるのんを知ってるやろ。あそこや。あそこの『ぜんざい』が旨いんやで。それを喰いに行こうぜ! 」
「奢るって、ホンマにか? お前、金を持ってるんか? 」
同僚の石坂勇二が声を掛けると、浦山は片目を閉じて大きく頷いた。
 浦山が先頭に、ドヤドヤと店に入った。慌てて人数を数えた店員が、入口にあるドラを、その数だけジャンジャンと打ち鳴らした。狭い店内は八人が座ると満席となった。恵と美紀が同席でキヤッキヤッと騒いでいる。勿論、真実子は隣である。浦山が
「ぜんざい八ツ! 」
と大声で注文した。暫くして、お盆が運ばれて来た。
「ここのぜんざいはな、サッカリン(当時の人工甘味料)なんか使こうてへんのやで。本物の砂糖を使うてるんや。そやから、ホンマに甘もうておいしいんやで。さあ、みんな、喰おうぜ」
この店の常連なのだろうか、浦山は良く知っている口振りである。
 椀の蓋を取ると、大きな餅が二ツ入っており、小豆と汁がたっぷりと盛られてあった。このぜんざいは本当に甘くておいしかった。
 寒い季節で、夕方で空腹であったから余計に美味に感じられたのだろう。恵や美紀が、うっとりとした表情で、甘い味を楽しんでいる。
「ウワーッ! おいしかった、もう、サイコーッ! 」
食べ終った真実子が、頬を紅潮させて言った。全員笑顔で頷いている。
 この最高においしい『ぜんざい』は一人前六十円であった。予想していた『きつねうどん』三十円の倍なのだ。八人分で金四百八十円也である。それを浦山は千円札で支払ったのだ。上級生とは言え、まだ二年生だ。高校生が今時、千円札を持っているとは驚きである。
「ご馳走さんでした」
「おいしかったわ! 浦山先輩、おおきにねっ」
それぞれに礼を言った。その時
「ご馳走さんでした。浦山先輩はお金持ちで、うらやましいですなあ」
苅川の絶妙な言い回しに、爆笑となった。

  

つづく


取り寄せてみました!
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posted by はくすい at 15:01| Comment(0) | 虹のかなた

2019年02月12日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(98)

その一 異郷の空へ(98)
 

十二月二十九日。稽古納めである。練習のあと全員で部内試合を行った。その結果、一位・草山真実子、二位・山ノ上二郎、三位・浦山実となった。 何故か真実子には分が悪いのだ。どうやら、決定的な欠点を見抜かれているのかも知れない。
 全ての行事が終了したあと、顧問の安田先生が言った。
「みんな、寒い中ご苦労さんやったな。この道場が出来てから今迄大変やったけど、よう頑張ったと思うておる。地区大会では一回戦で負けたけど、そ
れはそれで良かった。みんな一人一人、得る物があった筈や。まだまだ先は長いんや。練習を積んで行ったら自(おの)づと道は拓(ひら)かれると思うんや。来年も、仲良く練習をやってくれ。そしたら試合に勝てる時もあるかと思う。来年は儂も、考えてることがあるんや。それはなにか、今の処は言わないで置く。それを期待して、待っていて欲しい。本当にご苦労さん」
部員たちは先生に向かって声を揃え
「ありがとうございました! 」
と深々と礼をした。これで今年の稽古は全て終ったのである。
『さあ、来年も頑張るぞ! 』と大きく息を吸い込んだ。だが、先生が言った『期待していろ』とはいったい、何なのだろう。
 
  

つづく


学校の校門に!分かるかな?
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posted by はくすい at 14:56| Comment(0) | 虹のかなた

2019年02月07日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(97)

その一 異郷の空へ(97)
 

帰宅すると自分の部屋へ入った。出島商業での惨敗と古山先生の叱責が、心の中に重苦しくのしかかっていた。それと、強引な奈々子の行動が割り切れない気持ちとなり、複雑に交錯した。
『どうして勝てないのやろか』あれこれと負けた理由を詮索した。
『何故、奈々子が気になるのか』とも考えた。
 奈々子とは、早朝の光の中で出会った。その時の印象は強烈だった。合宿での、あの咳き込んだジュースの味も、忘れられないものだ。
『ボクには草山真実子と言う恋人(のつもり)がいるのだ。同じ剣道部で、苦しい稽古をやってる仲間なんや。卒業まで、ずーっと一緒や』と変な言い訳を考えた。だが、今も尚脳裏に彼女の姿が存在しているのを知って、心臓がドキリと音を立てた。そして何かしら深い淵に沈んで行くのを感じた。
「二郎ちゃん! 」
ふいに耳元で大きな声がした。ハッと我に帰った。机に伏せて眠っていたのだ。目を上げると、母の青白い顔があった。
「具合でも悪いの? 帰って来たと思ったら、黙って部屋に入るし、口もきいてくれへんやないの! 心配で心配で、死んでしまいそうやわ! 」
必死の表情の言葉に驚いた。そして、これほど母親に心配を掛けた自分が、申し訳ないと思った。
「お母はん、ごめんな。今日の練習試合で、メチャクチャに負けたんや。それで、向こうの先生からボロクソに言われたんや。悔しかったんや・・・。疲れてたし、色々考えてたら、寝てしもうたんや」
半分ウソを言った。滅多に嘘など言わないが、心配を掛けないように、と僅かばかり心配りをしたのである。
「そう。それやったらええけど・・・。あまり心配させんといてね」
その言葉を聞いて、半ば安心した様子だった。
 夕食に大好きなオムレツを作ってくれた。食卓を囲んだ時には、もう何事も無かったように笑い声が飛び交った。


  

つづく


南国の花ですひまわり
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posted by はくすい at 14:52| Comment(0) | 虹のかなた