2019年06月13日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(22)

その二 悲しみと苦しみ(22)
 

休憩時間になると、
「山ノ上さん、今日は遅かったわねえ。汽車に乗り遅れたん? それとも、朝寝坊したんかな? 」
恵が悪戯っぽく笑いながら、肩を指でつついた。
「えっ、いや、まあ・・・。ちょっと用事があったんや」
「へえーっ、山ノ上君に用事があるやなんて、何やろ? 草山さんが淋しそうにしてたで、ホンマやで」
苅川が合わせて言った。父の事件を言わなかった。彼らに余計な心配をかけたくはないのだ。そこで、本当のようなウソを言った。
「ホンマはな、女子生徒に会うてたんや。その子の話が面白うてな、聞いてるうちに時間が過ぎてしもうたんや。草山さんよりよっぽど面白かったで。けど、あの娘(こ)に言うたらアカンで。ナイショやで」
女子生徒とは恵美子である。彼女は中学生だから、女子生徒には違いない。その言葉を聞いて
「えっ! ホンマに? ほんまにそうなんか! 」
苅川は色めき立ち、腹を立てた。真実子と仲良くしているのに、なぜそんな真似をするのか、相手は誰なのか、と言いたげに顔をキッと見た。恵は恵で、相手は長岡奈々子だと勝手に受け取った。そして顔色を変えた。
「そらアカンわっ! そんなんズルイわよ。アタシ、ゼッタイに気に入らんからね。山ノ上さんて、なんて人やの! 」
プンと怒って横を向いた。思い掛けない反応に驚いた。こんなに事態が悪化するとは思わなかった。ホンの軽い冗談の一言が、三人の仲を踏み潰す結果になるかも知れない。自らを反省した。それで本当の経過を二人に言った。

  

つづく

何処の夕日かな?
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正解は佐呂間湖でした^^
posted by はくすい at 13:10| Comment(0) | 虹のかなた

2019年06月04日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(21)

その二 悲しみと苦しみ(21)
 

家へ帰って見ると、色々な物が片付けられていた。洗濯物などもキチンと畳まれており、シャツにはアイロンが掛けられてあった。
『やっぱり、ウチのお母(か)んは大したもんや』感心をした。
 母は大阪へ行くのにも、色々と用意が必要であっただろう。大怪我をしている父に対して気を遣った違いない。交通費や入院費、大阪での滞在費、その他のお金など、足りているのだろうか、と少し気になった。
  
 朝、六時半に祖父の家に行った。中は温かく朝食の用意が出来ていた。
「お兄いやん。ご飯食べよらよ」
恵美子がニコニコとしながら言った。
「ハイ、頂きます。処で、おじいちゃんの具合はどうなんですか? 病気やないんですか? 」
伯母の由美に尋ねた。
「うん。昨日(きのう)から腹がシクシク痛む、言うて寝てはるんやけど、どんなんかなあ・・・。あとで様子を見てくるワ」
その時、電話のベルが鳴った。相手は里子であった。すぐに二郎に受話器を手渡した。
「モシモシ。二郎ちゃん、お母さんよ。お父さんね、昨日の夜、右足の手術をしたのよ。体は元気やから大丈夫なんやけど、とても痛がっていたわよ。それで今日、左足の手術をするんですって」
「それで、お母はんはどうするんや? ずっと大阪に居るんか? 」
「ううん、今日の手術が終って経過が良かったら、あしたにでも帰るわよ。あっ、そうやわ。タンスの引き出しにお金、五千円入れてあるから、もし何かあったら使っても良いわよ。学校、遅れないように行きなさいよ、良いわね・・・。そしたら、伯母さんに代ってちょうだい」
由美に受話器を渡した。柱時計を見ると七時を少し過ぎていた。短かい電話であったが、時間を取られたのだ。慌てて鞄を持って店の外へ出た。そして走り出したとたん、
「お兄いやん! 忘れ物やで。お弁当、お弁当! 」
恵美子の声が耳に入った。振り返ると、包みを持って追いかけてきている。
「おおきに。恵美ちゃん! 」
弁当を受取ってバス停へ走った。辻の角を曲がった処で突然右足が敷石に躓いた。アッと思った瞬間、バランスを崩して、大きくタタラを踏んだ。
『アッ! コケるっ! 』両手に鞄と弁当を持って転べば、無様(ぶざま)な姿を晒してしまう。咄嗟に左足を踏み出した。ダーッと頭が落ちかかって
『アブナイッ! 』すんでの処で頭が止った。息を弾ませながら前方を見ると、バスが発車して行った。
「あーあ、乗り遅れてしもうた。草山さん、ゴメンな」
仕方なくバス停で待った。もう、真実子は汽車に乗っただろう。苅川は自分の居ない車内で、真実子とどんな話をするのだろうか、と少し気になった。

  

つづく


最近煎り豆にはまってます!
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posted by はくすい at 14:11| Comment(0) | 虹のかなた

2019年05月30日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(20)

その二 悲しみと苦しみ(20)
 

「こんばんは! 」
挨拶するのももどかしく、店の奥へ行った。その声を聞いて恵美子が飛び出して来た。今にも泣き出しそうな顔である。
「お兄いやん、大変や! おいやんが事故に遭うたんやて、お母はんが言うとったで。それでおばやんが大阪へ行ったんやて、心配やわあ・・・」
「伯母やん、居たはる? 」
「うん。あるよ」
すぐに恵美子の母が出てきた。そして事故のあらましを説明をした。
 それによると父は、横断歩道を青信号で渡っていたのに、赤信号を無視した小型トラックが突っこんで来て、父と横にいた男に当たったのだ。幸にも横の男が緩衝となって両足の骨折だけで済み、命には別状はないが、横の男は意識不明の重体らしい。
「良かった・・・。そんなら案外、早よう退院できるかも知れへんなあ」
ホッと安心して、胸を撫でおろした。
「二郎ちゃん、ご飯食べるでしょ。用意が出来てるわよ」
安心したとたん、お腹がグーッと鳴った。
「お兄いやん、早う食べよらよ」
恵美子も安心したのか、屈託のない顔で言った。
「うん、おおきに・・・」
食事を始めると、すぐに気付いた。
「あれっ? おじいちゃん、どうしたん? どこかへ行ってるの? 」
いつも元気な祖父の顔が見えないのだ。
「うん? ああ、おじいちゃんね。お昼過ぎからシンドイ言いはって、離れで寝てはるんよ。大した事はないと思うけどね」
「ふうん。病気と違うんやろか」
「おじいちゃんもトシやからね、疲れてはるのよ。それより二郎ちゃん、何時に学校へ行くの? 朝ご飯、用意するから時間を教えて頂戴」
「うん、おおきに。七時に家を出たらええねん」
「そう。そしたら、六時半に用意をしといたらええのね」
「すんません。ちゃんと時間を守りますよってに、お願いします」
素直にお願いした。やはり親戚とは、ありがたいものだ。
 だが、一抹の不安があった。母はいつまで大阪に居るのだろうか。今日、行って初めて状態が分かったのだから、その後は何も決まっていないのだろう。長期の入院になる筈だが、その用意をして行ったのだろうか。
「お兄いやん、遊ぼうよら」
恵美子がせがんだが、都合があると謝って祖父宅を出た。
 
  

つづく

私の好きな、鉄仙です❣(花弁が厚くて食べれそう〜(^^))
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posted by はくすい at 15:17| Comment(0) | 虹のかなた