2018年10月18日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(71)

その一 異郷の空へ(71)
 

三日過ぎた放課後。三年生の男子生徒が二人、道場へやって来た。一人は背が高くてガッチリとした体格だが、もう一人はやせていてヒョロリとしている。物珍しげに見回していたが、やがて階段を登り、入口へやって来た。
「へえーっ、これが道場なんか」
ガッチリとした方が、靴を脱がずに道場へ入ろうとした。それに気付いた池上恵が、大急ぎで駆け寄った。
「すみません。ここは道場やから、土足禁止なんです」
すると、ガッチリした男が噛みついた。
「なにっ! 土足禁止やと? 誰が決めたんや! まぁええわ。オイお前、山ノ上とか言う奴は居るんか! 」
高圧的な態度に、恵は恐れを感じた。
「ハッ、ハイッ、居ります。すぐ呼んできます」
恵は慌てて部室へ走った。その恐わばった表情を見たので
『悪い事が起こらねば良いが』と思った。だが、ここは学校の中なのだ。
「ボクが山ノ上です。何か用事があるんですか? 」
「オウ、お前が山ノ上か」
ガッチリ男がジロジロと見た。誰だか知らないが、なんの魂胆があるのか。
「この間(あいだ)な、オレの妹がやな、お前らにエラく恥をかかされた。そやから、文句を言うてくれ、と言いよったんや。それがどういう事なんか、話を聞きたいと思うてな、やって来たんや」
ニヤリと、不敵な笑みを浮かべて言った。その言葉に、先日の五人組を思い出した。この男は、あのリーダー・加々田保子の本当の兄なのか。
「ボクたちは誰にも、恥なんかかかせてませんよ。先輩の妹さんかどうか知りませんけど、そんな話はなかったです。ホンマです」
下腹に力を込めて、毅然として言った。
「そやけどな、友達四人の前で、オレの妹をボロクソに言うた、と言うとったぞ。それが恥をかかせた、と言う事やないかい。どや、違うんか? 」
「違います! ボロクソに言うてませんよ。弱い者を、みんなでいじめたらアカン、と言うたんです! そんな事、当り前でしょう? 」
「なんやと! このオレに向かって説教するつもりか! 」
ふてぶてしい態度で、威嚇するように言った。今の場合、道場の入口で口論するとは、いかにも具合が悪い。
「どうぞ、中へ入ってください。そこでお話しましょう」
二人は黙って頷くと、靴を脱いで道場内へ入った。その様子を見て
『おや? 』と不思議なモノを感じた。今の今まで高圧的な態度を押し通してきたのに、黙って靴を脱いだのは何故なのだろう。
「片山さん、ちょっとこっちへ来て」
片山美紀がオズオズと前へ進み出た。


  

つづく


続いて鳴門金時里娘の天麩羅
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posted by はくすい at 14:39| Comment(0) | 虹のかなた

2018年10月16日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(70)

その一 異郷の空へ(70)
 

 明くる日。片山美紀が登校し、教室に入った。生徒たちの視線が、一斉に彼女に注がれた。例の五人も居て、屈辱するような目で美紀を見ている。その内の一人が美紀の方へ歩み寄ろうとした時、入口の戸を開けて井仲がニユッと顔を出した。右手を振り上げながら
「片山さん、おはようさん! 元気か? 」
大きな声で挨拶した。突然の事であったが、美紀は大きく頷きニッコリと微笑んだ。そして
「おはようございます! 」
ペコリと頭を下げた。美紀に文句を付けようとした五人組は、井仲のたったその一言で、見事に腰を折られてしまった。
「そいじゃあ、放課後なっ! 」
もう一度片手を上げると、井仲は去って行った。美紀は軽く頭を下げた。
「クソッ・・・。なんや・・・」
五人組のリーダー、加々田保子はニガリ切った顔をした。クラスの生徒がザワザワと騒ぎ始めた。これから先、井仲が毎朝挨拶に来るようでは、美紀にうかつに手が出せない。今迄は好きなようにいじめられたのだが、これからはそうは行かなくなるのだ。
 昼の休憩時間になると、今度は池上恵が美紀を訪ねてやって来た。
「剣道部のマネージャーに、用事があるんです」
と言う理由をつけて、堂々と入って来たのである。恵も仲々の役者であったから、周囲に良く聞こえるように、美紀と楽しく会話したのである。
 これは生徒にとって、大きなアピールとなった。剣道部員が今後、この行動を取り続けて行ったならば、美紀に対するイジメも次第に無くなって行くだろう。井仲人也は、自分が考えたこの作戦に大満足であった。
 放課後になると、美紀は海山道場へ向かった。新マネージャーとして道場へ入ったのである。マネージャーとしての仕事はまだ何も決まっていないので、一冊のノートを用意していた。日誌を付けて貰って、記録として残して置く目的なのだ。この日誌には、部員の出欠席や、その日の練習課題、反省事項等を記入するのだから、自(おのづ)と毎日の出席が必要となる。それがもう一つの目的だった。道場へ来れば、少い部員たちだが素直な会話が出来る。なんの偏見もない同じ目的の同志として、時間を共有出来るのだ。
 要望に応じて片山美紀は快くノートを受け取った。そして美紀は恵と二人で、男共の目の届かない処で協力しあおうと約束したのであった。


  

つづく


頂いた秋の味覚で芋栗ご飯黄ハート
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2018年10月04日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(69)

その一 異郷の空へ(69)
 

聞けば彼女は同じ一年生であり、名前は片山美紀と言った。こんなか細い女の子を、何故あの連中はいじめたのだろうか、どんな理由があるだろうかと、不審に思った。
「もし、ナンかあったら、ワイらに言うて来たらええで。お前をワイらが守ってやるよ。ワイらは剣道部やよってに、ナンにも恐(こわ)ないで」
井仲が得々として喋った。だが片山美紀の表情は、すぐには晴れなかった。
 とりあえず彼女を道場へ連れて行った。道場には同性の池上恵が居るので安心出来るだろう。事情を説明し、美紀を見学者として椅子に座らせた。部員たちが練習している間、道場の隅でずっと見ていた。
 腹の底から大きな声を出し、激しく動き廻っている。竹刀を握る腕に力がみなぎり、額から汗が噴き出しているのだ。そんな部員たちの練習振りに、少し心が動いたのであろうか、やっと片山美紀の顔にも赤味が差してきた。
 終了後。片山美紀を囲んで、話をゆっくりと聞いてみた。彼女は誕生前、母親のお腹の中で逆子であったそうな。それが原因で、両肢に少し障害が残った。小学校低学年の頃は分からなかったが、高学年になるに従い、周囲から指摘を受けた。それ以来、それが心の中で大きな負担となってしまった。
 中学生の時、病院で下肢の手術をしたので、外観的には殆ど分からなくなった。走りも泳ぎも負けていない。他の運動をしても何等支障は無いのだ。だが、歩く姿を背後から見ると、少しヒョコヒョコと傾(かし)いでいるらしい。それを、今のクラスでは共通のネタにして、嘲笑しているのだと言う。
 理不尽で、卑怯である。味方してくれる女生徒は誰一人として居ないし、毎日が苦痛の連続だ。入学してまだ半年しか経っていないのに、なんて悲しい話なんだろう。母親にその事を何度も相談してみたのだが、
「そんなイジメに負けないで、頑張りなさい」
としか言ってくれなかった。母親としても、どれほど悔しい思いがあったのであろうが。
 先程の五人組のリーダーに対して、精一杯の勇気を振り絞りもう、イジメるのはヤメテ! 」
と抗議をしたのだ。だが五人組は衆を頼んで吊るし上げにかかったのだ。無理矢理、校舎の裏に連れ出され、罵詈雑言を浴びせられたのだった。
『もう、学校へ来るのはやめよう』と決心したのだ、と訥々と話した。
「なんちゅうエゲツない奴らや。人様のやる事と違うやないかい。ワイらは今まで悪さはしたけど、人の道を外した事なんかあれへんぞ! ワイが話を付けたろやないか! 」
井仲が興奮気味に言った。見事な正義漢だ。そんな彼に好感を抱きながら、
「まあ、ちょっと待って」
と押し止めた。これから先、この美紀がどうすれば、いじめられないようになるのだろうか。それを考えるのだ先決だと思ったのだ。
「ねえ、山ノ上さん。片山さんに、マネージャーになって貰ったらどうやろか? 同じクラブやったら助け合えるし、あの連中も手ぇが出されへんのと違うやろか? 」
今まで黙っていた、恵の突然の意見に、
「それやっ! 」
と膝を叩いた。
「それはええ考えや。池上さん、名案やで。そないしょう、それがええわ。片山さん、アンタはどう思う? 」
「ウン。けど、みんなに迷惑が掛かれへんやろか。迷惑が掛かったら、ウチは心苦しいし。それにマネージャーなんか、やった事がないし・・・」
消え入りそうな声で答える美紀に
「大丈夫や! なあ片山さん、そないしたらええ。あとはワイらが守ったるでェ。その代り、学校をやめたらアカンのやで・・・」
自信に満ちた、大きな声で井仲が言った。その声の大きさにみんなは
「ホウッ! 」
と驚き目を丸くした。片山美紀の入部が決定し、剣道部の新・女子マネージャーが誕生したのであった。

  

つづく


大きな金木犀の木でした
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posted by はくすい at 12:01| Comment(0) | 虹のかなた