2019年04月18日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(12)

その二 悲しみと苦しみ(12)
 

月が変わって二月十一日。紀元節の祝日である。
「おはようさん。今日も寒いなあ・・・」
「おはようございます。まだ二月の初めやもんねえ。寒いわねえ」
口を開くと一様に『寒い』という言葉が出てくる。
 二人は昼前の汽車に乗った。苅川の家は五保市(ごぼし)なのだ。それで乗る列車を決めていた。客室内には見事に全員が揃っていた。
 汽笛が『ブォーッ! 』と鳴ると、ガタンと列車が動き出した。汽車はあえぎながら峠を越えた。そして、山間部から海岸沿いへと走った。
「五保市って、どんな町なんやろか? 」
過去に列車で通過したけれど、全く覚えがない。
「古い町やで。苅川ん家(ち)へは、臨港線で行くんや。田ンボばっかりやで」
「えっ! リンコーセン? なに、それ」
それが何かは分からなかった。そんな乗り物があるのだろうか。
「すぐに分かるで、見てのお楽しみや」
ニヤニヤしながら井仲が言った。彼は知っているのだ。
 五保市は目高川(めだかかわ)河口にある港市である。中心地区の五保は西本願寺別院の門前町として発展した古い街である。近世には回船の寄港の多い港町としてまた、林業産物の集散地として賑わった。そして、漁業も盛んである。
 汽車は海岸部から平野部へと走った。低い山並みと、田園地帯が広がっている。そして間もなく目的の五保駅へ到着した。
 隣のホームを見てアッと驚いた。そこには見たこともない、小さな蒸気機関車が停まっていた。遊園地にあるような偽物ではない、本物なのだ。本線の機関車と比べると、その四分の一の大きさぐらいだ。一人前に煙を吐いている。客車も小さくてマッチ箱のようだ。夏目漱石の小説『坊ちゃん』に登場する汽車を思い出した。
「へえーっ! ちっちゃいなあ。こんなんで毎日、学校へ来てるんか? 」
感嘆しながら言った。
「そうやで。アイツは毎日、これに乗ってるんや」
「ふうん。面白いなあ・・・」
この五保駅から目高川の河口まで、この小さな五保臨港鉄道が通じているのだ。距離にして約十二キロメートルである。
 すぐに発車時刻となり、超小型蒸気機関車は蒸気を上げて勇ましく
「ポーッ」
と汽笛を鳴らした。シュッシュッシュッと蒸気を吐きながら、ゴトゴトと走り出した。だが、音の割にはスピードが出ていない。
「この汽車、遅いわねえ。もっとスピードが出えへんのやろか」
恵が不満そうに言った。動輪が小さいので、ピストンの往復が早くても、速度が上がらないのである。
「臨港鉄道って、どこでもこんなもんやで」
「坊ちゃんの汽車の方が、これより速いんとちゃうか? 」
「アホやなあ。あれは、明治時代の話なんやで。今は昭和の三十三年やぞ。時代が違うんや。今の方が早いのに決まってるわい」
「ちゃうよ。あれは大正時代やぞ。お前、間違うてるぞ、知らんのか」
「アホ言うな、明治やで。何にも分かってへんなぁ」
「ナニ言うてんねん。大正やて、大正」
変な処から議論になった。

  

つづく

学校の前の公園に真っ白い鳩が!
IMG_2558[1].JPG



IMG_2562[1].JPG
posted by はくすい at 15:59| Comment(0) | 虹のかなた

2019年04月16日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(11)

その二 悲しみと苦しみ(11)
 

二回戦目。苅川は二本負けとなった。真実子は抜き胴の一本勝ちとなり、あとの三人は引き分けた。一勝一敗三引分けだが、取得本数が二本対一本なので、敗者となった。先程の喜びは何処へやら、一度に意気消沈となった。
「そやから言うたでしょう。あんなまぐれ勝ちなんかで、喜び過ぎたらアカンって。それやのにみんな、聞いてくれへんかったやないの。浮わついた気持ちで、勝てる訳がないでしょっ! 」
真実子が叱責した。彼女は勝ったのだから、誰も反論出来ない。
「まあまあ、そんなに怒らんといて頂戴。みんなは自分らが悪いのは良う分かってるのよ。そやから、もう許してやって」
恵がなだめ役を買って出た。
「そうよ。曲がりなりにも一回戦は勝てたんやから、目標は達成したんよ。ねえ、今日の処はこれでええやんか」
美紀も中に入ってきた。
「ゴメンな、草山さん。たった一回勝ったぐらいで、オレが浮かれ過ぎたんや。悪いのはオレ一人や、ホンマにゴメン」
神妙な表情で、苅川が頭を下げた。
「いや、そやない。全員の責任や。もっと真剣に試合せなアカンのや」
石坂が述懐するように低い声で言った。
「しょうがないわねえ。これから気を付けましょうねっ! 」
彼女は仕方なく折れた。文句を言った処で、何も進展する筈がないのだ。
「なあみんな、せっかく一回戦に勝てたんやから、来月のオレの誕生日にウチへ来てくれよ。みんなでパーッとやろうや。どうや? 」
苅川が気を取り直し、声を弾ませて言った。
「そうや、忘れてた。みんなで行こうや、楽しいで」
その声に気嫌が直ったのか、真実子も素直に頷いた。
「そうね、気晴らしになるわね。みんなで行こうよ、ね」
気まずい雰囲気が少し和らいだ。どうにか一勝したので、片山美紀に対してのお礼が出来たのであった。


  

つづく


家の前の桜がやっと満開になりました黄ハート
IMG_2577[1].JPG
posted by はくすい at 11:41| Comment(0) | 虹のかなた

2019年04月11日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(10)

その二 悲しみと苦しみ(10)
 

新人大会の当日。集合して大会会場へ向かった。
「うーん、寒い。寒いけど、今日は調子がええぞ。勝てそうな気がするで」
苅川はなぜか機嫌が良かった。汽車の中でも恵を相手に冗談を飛ばし、笑い転げて一人でウケけていた。
「オイ、苅川。そんなにはしゃいでええのんか? オレらには迷惑やぞ」
上級生の浦山がたしなめた。一瞬、彼は静かになったが、三分も経たない内に、またもや始まった。
『しょうのない奴っちや。一回戦を勝てるのやろか』苅川を見ていて、少し不安になった。
 体育館では以前と同様に、真実子の姿が目を引いた。行く先々で衆目の的となった。だが、気にはしていられない。これからの試合が大事なのだ。
 一回戦目。相手は西陽(にしひ)高校である。先鋒の苅川は幸運であった。 それは相手の場外と、竹刀落しの二回の反則で一本先取となった。気を良くした彼は時間を逃げ切り、勝者となった。真実子と二郎は共に引分けに終わった。副将の浦山も幸運だった。相手は浦山の胴を狙った。その時不覚にも、自分の袴を踏んだ。『ドシン』と床に転んだ。その瞬間、浦山がメンを打った。三人の審判がサッと旗を上げ、一本先取となった。そして苅川と同様に逃げ切り、勝者となった。大将も引分けで、結果は二勝三引分けとなった。これで、見事(?)な勝利である。
 試合終了後、選手たちは手を取り合い、踊り挙がって喜んだ。待ちに待った公式戦第一勝である。
「やった! ヤッタゼ、勝ったんや! 」
「良かった、初めて勝ったぞ。オレらの勝ちや、嬉しいワイッ! 」
「そや、見事なもんや。一本も取られへんかったで、完勝や、完勝! 」
みんなはワイワイと騒いだ。
『試合は勝たんと意味があれへん。勝つのが一番や』久し振りの勝利に心は晴れやかだった。そんな中で
「喜び過ぎたらアカンわよ! まぐれやないの、これは。相手のミスでまぐれで勝っただけやんか! 次があるのよ、次が、分かってるの! 」
チームの浮いた気持ちを抑えようと、必死になって叫ぶ真実子の声など、誰の耳にも入らない。二郎までもが喜びの渦中にいたのだ。

  

つづく


こんな所に♡
IMG_2538[1].JPG
posted by はくすい at 12:01| Comment(0) | 虹のかなた