2019年08月20日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(28)

その二 悲しみと苦しみ(28)
 

由美と恵美子と食卓を囲んだ。主人の恵介は寄り合いだとかで留守であった。恵美子が耳元で言った。
「おじいちゃん、入院するかも知れへんて、お母はんが言うてたよ。ウチ、びっくりしたわ」
「えっ、ホンマに? どんな病気やの? 」
その会話に気付いた由美が、横から言った。
「それが、良く分からへんらしいのよ。お腹の中に腫れ物が出来てるって、先生が言うたのよ。そやから、お腹が張って痛みがひどいらしいの」
『お腹の中の腫れ物』とは、どんな物なのだろう。どうすればその病気が治るのだろうか。
「それで、いつ入院するんですか? 」
「まだ、分からへんのよ。ベッドが一杯なんで、空くのを待っているんよ」
「そうか・・・。大変やなあ・・・」
食後、離れへ見舞いに行った。祖父は眠っていたが、その寝顔を見て愕然となった。ひどい変貌ぶりだ。頬はゲッソリと痩せ落ちて、まるで死人のように見えた。昨年の夏、海山道場を整理するのに喜んで力を貸してくれた、あの頑丈そうな風格がまるで抜け落ちている。呼吸の度に胸がかすかに動くので、生きているのには間違いがないが、顔にはまったく精気がない。
「おじいちゃん・・・」
呆然と立ち尽くし、言葉に詰まった。熱い思いが胸にこみ上げてきて、両方の目から涙がポロポロと流れた。黙って頭を下げると部屋を出た。 
 試験の最中、祖父は病院へ入院して行った。

  

つづく

何処の五重塔?
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2019年07月18日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(27)

その二 悲しみと苦しみ(27)
 

明くる日、母は朝早く旅立って行った。心細くないと言えば嘘になるが、こんな境遇に負けないで頑張るんだと、気を引き締めたのであった。
「小母さん、大阪で暮らすんですってね。きのう、挨拶に来られたそうよ」
バスの中で真実子が話しかけた。
「うん、そうやねん。半年ぐらいやと思うよ。そんなに長い間やないから、ボクは平気やで。それより、今度の試験の方が大事や」
「アタシ、お家(うち)のお掃除に行ってあげようか? 綺麗にしてあげるよ」
「えっ! いや、いらんいらん。自分でするよ。そんなん、いらん」
「強がり言って、本当に大丈夫? 天井にクモが巣を張るのと違う? 」
クモが大の苦手なのだ。あの不気味な姿を見ただけでも、ゾッと背筋が冷たく成る程だ。それを知っていたのだ。
「大丈夫や。ホンマやで! 」
胸を叩いて言った。決して強がりではない、やり遂げる自信があるからこそ言えたのである。誰が蜘蛛などに巣を張らせたりするものか。だが、そんな話を持ち出すとは、なんと小憎(こにく)たらしい真実子だろうか。そう思いながら見ると、得意そうに唇を尖らせていた。


  

つづく



ナッツにもはまっています!
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2019年07月16日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(26)

その二 悲しみと苦しみ(26)
 
試験前はいつも通り図書室で勉強した。帰ると玄関の街灯が点(つ)いていた。母が帰っているのだ。心が温かくなった。やはり母の存在は大きいのだ。
「ただいまっ! 」
大きな声で玄関に入った。台所から
「お帰り、二郎ちゃん」
耳に入るその声もまた快感である。 
 夕食の時、里子から重要な話があった。
「良く聞いてね。お父さんは手術もしたし、必ず治るんやけど、時間が掛るのよ。会社の方は順調で忙しいんですって。それで、お父さんの代りにお仕事を手伝って欲しいって、頼まれたんよ。怪我が治るまでの間(あいだ)だけ、是非にって言われたのよ。お父さんもその方が良いって言わはるし、そうしようと思うのよ。そやからお母さんは、明日(あした)から大阪へ行くようにしたのよ。お父さんのアパートがあるし、病院にも毎日行けるから、その方がええと思ったのよ。二郎ちゃんには申し訳ないけど、お兄さん夫婦に頼んであるから、ご飯を食べに行って欲しいのよ。洗濯物も、伯母さんにお願いしたらええのよ。お願いやから、暫くの間、辛抱してね」
予想通りだと思った。母がその話を出す前から、覚悟は出来ているのだ。
「エエよ、お母はん。ボクはもう子供やないから、一人でも大丈夫や。お父はんの分まで頑張ったらええやんか。ボクのことなんか、心配することあれへんのやで」
力強い息子の言葉を聞いて、里子は嬉しかった。いつの間にか、自分が気付かない内にぐっと大人になっている顔を見て、安心と共に感激をした。急に目尻に涙が湧いてくるのを知った。
「おおきに、二郎ちゃん・・・」
そう言うだけが精一杯であった。

  

つづく



ソーキソバ、作りました❣(大正、平尾商店街で沖縄そばを購入)
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posted by はくすい at 13:54| Comment(0) | 虹のかなた