2020年01月28日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(53)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(53)
 

隣町からの長いトンネルを抜けて、ようやく由奈駅に着いた。家を出てから帰宅するまで、実に十五時間も経過していた。
「ただいま」「こんばんは」
二人が玄関に入ると、母親が急いで出てきた。
「いらっしゃい、お腹、空いてるでしょう、用意が出来ているわよ」
「ありがとうございます」
この前訪問した時、自分の家と何かが違うように思えたのだが、今日も又、どこか違うように感じられたのだ。いったい何故なんだろう・・・。
 居間の机の上に、鉄鍋が置かれてあった。
「お母さん、スキヤキなの? 」
台所から真実子が叫んだ。
「そうよ、スキヤキよ。二郎さんが好きだったらと思って、お肉もたくさん用意してあるのよ。それで良いでしょ」
「うん、ありがとう。アタシもたくさん食べるから・・・」
座布団に座り、もう一度部屋の中を見廻した。鴨居や壁に、小さな飾り物や花を生けた花瓶などが置いてある。そこに細々(こまごま)とした色彩が見られるのであった。これらは真実子の趣味に違いない。
『そうか! これなんや! 』やっと気が付いた。この家には若い娘が居るのだ。そこが、同じような家なのに、雰囲気が全く違うのだ。
『やっぱり女の子というものは、細かい処に気ィが利くんやなあ・・・』
実に感じ入ったのであった。
「さあさあ。始めましょ」
 食事中には、大阪での話題に花が咲いた。御堂筋のこと、中之島でのボートのこと、ヤマガラのおみくじのこと、心斎橋や通天閣のことなど、時間がいくらあっても足りないほどであった。
「ねえ、お母さん。二郎さんたらねえ、お行儀が悪いのよ。コーヒーはこぼすし、ジュースもよ」
「へえーっ、そうやったの・・・」
真実子は、悪戯っぽく目を細めて言った。ハッとしたが、すぐ切り返した。
「そんなん、ボクだけやあれへんのですよ。草山さんもクリームを落としたやんか。そやから、五十歩百歩やで・・・」
お互いに目と目が合い、クスッと笑い合った。
 ご飯とスキヤキを腹一杯ご馳走になった。そのあと、お茶も飲んで話は続いたが、明日は学校なので余り遅くまでは居られないのだ。

  

つづく

燻製枝豆作ってみました(意外と美味しいです)
IMG_5683[1].JPG
posted by はくすい at 13:59| Comment(0) | 虹のかなた

2020年01月23日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(52)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(52)
 
ホームには列車が到着しており、客が多数乗り込んでいた。二人は向かい合う席は取れずに、並んで座った。
 一日中歩き回って疲れたのか、真実子は発車間もなくコクリコクリと居眠りを始めた。最初は前後に揺れていたが、やがて左に傾き、二郎の肩に頬を乗せてしまった。眠いのだが、肩が気になって眠れないでいた。その内、二郎も居眠りを始めた。車掌に検札で起こされるまで眠っていた。もうすでに県境を過ぎていた
「ふあーっ、よう眠ったなあ・・・」
大きく欠伸をした。
「ホントね、何も知らなかったわ。気持ちよかった・・・」
真実子も大きく伸びをした。やがて列車は、東和歌山の駅に着いた。
「大阪って、近いようやけど、結構、時間がかかるわねえ。もっと早く行けるような方法は、ないのかしら」
「そうやなあ。和歌山は色んな面で遅れてるんや。特急も、ディーゼルカーも走ってへん。景色はええし、観光地も多いのに、なんでやろなあ」
ジュースを二本買った。もう外は夕闇がせまって来ている。
「話は戻るけどね、ボクは将来、写真機の方面へ進みたいと思うてるんや」
本当の願望を言った。製薬会社と言ったのは、単なる思いつきだったのだ。
「やっぱりねえ・・・。アタシはそう思っていたのよ。お父さんの仕事みたいじゃないかな、ってね」
彼女は少し得意げな顔をした。推測が当たっていたと言いたかったのか。
「ううん。お父はんの仕事は、写真機なんかを売るのが商売や。ボクは、カメラを設計したり、製造(つく)ったりする仕事がしたいのや。ドイツのライカに負けんような、新しいカメラを造って見たいと思うてるんやで」
「そう。アタシね、二郎さんがいつも持ってる写真機を大事にしてるでしょ。それを見て、写真機が好きなんだなァ・・・って思っていたのよ」
「ふうん、ちゃんと見てるんやなあ。そやけど、今日はようけえ写真を撮ったなあ。丸々二本使ったで。明日(あした)、写真屋さんに出しておくよ」
中之島やミナミでの、真実子の朗らかな表情が脳裏に浮かんだ。
 その後、剣道は大学でも続けること。社会人になっても続行し、町道場で子供たちの指導も手掛けたいなどと、熱っぽく語った。真実子は楽しそうに相槌を打ちながら話を聞いた。そして、自分もそれに追従して行きたいという思いにかられたのであった。
 
  

つづく

イカ焼き作ってみました。
EYGT7790[1].JPG



OLNX0557[1].JPG
posted by はくすい at 14:26| Comment(0) | 虹のかなた

2020年01月21日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(51)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(51)
 

駅に着いたのは午後四時(十六時)二十分であった。少し時間があるのでパーラーに入った。ケーキか何かで、オヤツ代わりにしょうとしたのだ。
「アタシね、イチゴケーキが大好きなの」
バーラーに入って二人は、同じイチゴケーキを注文した。
「二郎さん、今日は本当にありがとうねえ。アタシには初めてのものばっかりやったし、とても楽しかったわ。良い物を見せて貰ったし、おいしい料理をご馳走して貰ったから、とてもうれしいのよ」
瞳を輝かせながら言った。
「そう思って貰ったらボクも嬉しいよ。お父はんの見舞いに付き合わせたんやから、当たり前のことをしただけや。遠い所から来てくれたんやから、ボクの方からお礼を言わせて貰うよ」
「ううん、そんなことないって・・・。アタシも小父さんや小母さんに会えて嬉しかったんやから、ホントよ」
真実子はイヤイヤをするように上半身をねじった。とたんにフォークの先から、白いクリームがポトリと膝の上に落ちた。
「アッ! いけなーい」
慌てておしぼりでスカートを拭いた。それを見てプッと笑ったが、その時、ストローの先がカツプから外れてジュースがズボンの上に流れた。彼女はそれを見て指を差し、目を大きく開いた。そして二人で腹を抱えての大笑いになった。とんでもないお互い様である。
「ねえ、二郎さん。夕ごはんはどうするの? 」
これから三時間以上は掛るから、帰宅は夜の八時を回る計算だ。
「うん。ここか、東和歌山で駅弁を買おうと思ってるんや、どうやろか」
「それやったら、もうちょっと辛抱して、アタシの家(うち)へ来ません? 駅弁よりずっとマシよ、その方が良いわよ」
「えっ! それはあかんわ、厚かましいで。それやったらボク、伯父さんの家へ行くよ」
「ううん、ウチの方が良いわよ。お父さんは出張で居てないし、お隣やから近いでしょ。アタシ、お母さんに電話してきます」
そう言って真実子は立ち上がり、駆け足で公衆電話へと向かった。
「そうか・・・。草山さんの家には電話があるのか」
初めて気が付いたのだった。
 真実子はすぐに戻って来た。満面に笑みを浮かべている。
「成功よっ! お母さんがぜひ来てくださいって言っているわ。二郎さん、そうしましょうねっ! 」
話はこれで決まりである。またもや真実子にリードを許してしまった。
「早く食べて、汽車に乗りましょ」
ケーキを平らげ、飲み物も干した。
 
  

つづく


早くも白梅が
IMG_5644[1].JPG
posted by はくすい at 14:31| Comment(0) | 虹のかなた