2020年07月16日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(80)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(80)
 
日曜日の朝。大阪へ向かった。今日はアルバイトを休んで、父と母の見舞いに出掛けたのである。真実子に叱られたから行く訳ではない。子供が親を心配するのは当然のことなのだ。今回は一人での大阪行きであった。時間的に余裕があるので午前中の列車に乗った。
 先ず父親の病院へ行った。父は、見るからに元気そのものであった。
「二郎、よう来てくれたなあ。ホレ、この通り、少し歩けるようになったんや。もうちょっとしたら退院できるやろ・・・。ここの病院にも世話になったなあ。そやけど、酒を呑めんのがかなわんわ」
包帯が痛々しいが、屈託のない顔を見て嬉しかった。
「ほんまやなあ・・・。医学の進歩って、すごいんやなあ。折れた骨がひっつくなんて、考えられへん。どうなってんのやろ」
「なんでも、ボルトで繋いであるらしいのや。特殊なボルトや」
「ふうん、そんなことが出来るんか。すごい技術やなあ」
「時代の進歩と共に、なんでも進んで行くんや。昔、テレビジョンなんかなかったやろ。それが今、相当に売れているらしいのや。オレも何回か見たけど、仲々ええもんやなあ」
昨年の暮、恵美子と見た『紅白歌合戦』を思い出した。
「この間(あいだ)な、草山さんが来てくれたんや。すぐ帰ったけど、お母さんのとこへも行ってくれたらしいから、俺は嬉しかったで」
「うん、真美ちゃん本人から聞いた時はびっくりしたで。ボクにはナンにも言わんと一人で来たんやさかいな」
「二郎。俺の方はもう良いから、お母さんのとこへ行って来い。もうだいぶ良さそうやぞ。もう少しで退院出来ると思うで・・・」
ふと、父親の表情の中にあるものを感じた。何事かを伝えようとする素振りであった。だが口を閉ざして黙っている。
「うん、そうする・・・。じゃあ、元気でね」
片手を挙げると、病院から退出した。先程の父親の言葉の中に、一抹の不安のようなモノが胸に残っていた。
 階段を上がり、里子の病室に入った。一番奥の窓際が、里子のベッドであると真実子から聞いていたので、すぐに分かった。そのベッドに近付くと、彼女は椅子に掛けている男と話していた。その男はいったい誰なのだろう。
「こんにちは・・・」
声を掛けた。男は二郎の方へ振り向くと
「やあっ! 」
と言いながら手を挙げたので軽く会釈をした。だが、誰なのか分からない。
「おや、二郎ちゃん。来てくれたのねえ・・・。おおきにね」
母は嬉しそうに胸の前に手を組んだ。
「ねえ、二郎ちゃん。この人、誰だか分かるかしらねえ・・・」
突然の質問に、思わずその男の顔を見た。二十三・四才位だろうか、背広姿の好青年であった。だが、目を合わすのには、何か気恥ずかしさを感じたので、すぐに母の方を見た。
「さあ、分かるかなあ。これは難しい問題だよ」
その声の響きやアクセントには、全く憶えがなかった。いつも聞き慣れている言葉ではなく、これは関東弁だと思った。
「二郎ちゃん、顔を良(よ)おく見てごらんよ。誰かに似てるでしょ」
母の言葉にもう一度、その男の顔をジッと見た。なんと、その顔は父親に似ているのだ。目元や口元がそっくりである。となると、この男は・・・。
「イ・・・、一朗兄さん・・・ですか? 」


  

つづく


今年の梅シロップは2本取れました^^実は梅干しに❣
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posted by はくすい at 15:28| Comment(0) | 虹のかなた
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