2020年07月07日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(79)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(79)
 
「ああ・・・、しんどかったなあ・・・。俺はもうバテてしもたで」
井仲が真っ先に口を開いた。
「ホントよ。アタシ、こんなん初めてやわ・・・。もう死ぬかと思うたわ。おまけに、いっぱい気を遣うしねえ、しんどいわ・・・」
恵は真っ赤な顔をして、胸が苦しいのか、手を当てた。
「そやけど、ええ練習になったで。こんな練習を毎日続けたら、強うなれるんやろうなあ・・・。オレはこんな練習、もっともっとやりたいと思うで・・・。なあみんな、そう思うやろ」
不田が珍しく神妙に言った。随分と前向きな言葉である。彼なりに考える処があるようだ。その言葉を聞いて『これはスゴイ』と感心したのだ。
 良く考ると、この不田は入部以来、練習を一度も休んでいない。その上、練習熱心である。それだけに進歩が早く、中学からの経験者である苅川よりも今は腕が上になりつつあるのだ。勿論、同期の井仲とは一歩も二歩も差が付いているようだ。
「不田さん、良い事を言うわねえ。アタシもその意見には大賛成するわよ。一緒に頑張りましょうねえ」
真実子が拍手するような手つきで、不田にエールを送った。
「えっ! なんやて? 草山さんがオレを褒めてくれてるんか? ホンマに? オレ、恥ずかしいで・・・」
驚いて自分の顔を指し、きまり悪そうに言った。今日の彼は、いつもとは違うようである。
「オヤァ、不田が恥ずかしがってるで・・・。そんなん、この顔にゼンゼン似合わへんがな。やめとけや」
井仲がはやし立てるように言った。
「やかましい! オレは気が弱いんや。オレをいじめるな! 」
不田のそのモノの言いように、廻りの者たちは大笑になった。
 実は不田は、今日の先輩方との稽古で大変な衝撃を受けたのだ。先輩方とは実力(と言える程ではないが)の差が余りにも違い過ぎていたからだ。
 今迄は、たとえ試合に負けても同じ高校生なのだから、その差はすぐに縮まるものと思っていた。同じ部員たちであればドングリの背くらべの様なもので、二郎といえども自分の射程距離内に入っていると信じていた。それが、十年程年齢の離れた先輩と言うだけで、天と地以上の差があるのを知ったのだ。『自分も、こんなに強くなりたい』と思った。努力をして強くなれるのであれば、どんなことでもやって見よう、と深く心に期するものが出来たのであった。それで、前向きな言葉が出たのである。
 駅までの途中、不田が話し掛けた。普段とは違う、真面目な表情だ。
「今日はすごかったなあ・・・。オレはあんな稽古、初めて見たで。今までのオレらの練習なんか、全然なってへんな。先生も厳しいけど、まだまだ優しいのかも知れへんなぁ。オレは、吉雪先輩みたいに強うなりたいと思うてるねん。そやから、もっとキツイ稽古をやろうや。なあ、頼むで」
その言葉に驚いた。本気でそう思っているのだ。言葉に力があり、顔がいつになく引き締まっている。
「そうか・・・。不田君はホンマにそう思ってるねんな。それやったら、ボクらも応援するよってに、一緒にやろうや」
「そうよ。アタシだって男子に負けへんわよ。女でも、男以上に出来ることを証明してやるわよ」
「うん、分かった。宜しゅう頼むで。もうすぐ中間試験やろ、それが終ったら思いっきりやるで! 」
晴れ晴れとした顔で力強く言った。苅川と恵は黙ってその話を聞いていた。

  

つづく

鶏飯炊きました❣もちろん胸肉使用です^^
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posted by はくすい at 15:07| Comment(0) | 虹のかなた
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