2020年06月04日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(73)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(73)
 
奈々子は病院を出てから、宛もなく大阪の街を歩いていた。もう東も西も分からない。悲しくて悔しくて、胸が張り裂けそうであった。真実子が二郎の家の隣に住んでいるなんて、考えたこともなかった。そんなことが本当にあるなんて、信じられなかった。
『アタシは、二郎さんと映画に行ったのよ。食事も一緒にしたし、手を繋いで海岸を歩いたこともあるのよ。二郎さんの家で、二人並んでアルバムも見たのよ。ついこの間は、海岸で口づけまでした仲なのよ・・・』色んな思いが交錯し、脳裏を駆けめぐった。これから先、どうすれば良いのだろうか。自分は二郎さんに嫌われるかも知れない・・・、などとクヨクヨと考えた。
 前も見ず、下を向きながら歩いているので、何度か人に突き当たった。その度に、頭を下げて謝らなければならなかった。突然、目の前にトラックが急停車し、『ブワーッ』とクラクションが鳴った。ハッとして立ち止まると
「このアホンダラッ! 気ィつけんかいっ! ドアホッ! 」
大声で罵声を浴びせかけられた。目の前の、歩道の信号が赤になっているのに気付かずに、一人だけフラフラと前へ出ていたのだ。
 一時間以上も歩いただろうか。ふと立ち止まってあたりを見回すと、そこは以前にどこかで見た風景であった。
「アッ! そうや! ここは、道頓堀やわ! 」
 浜大阪病院から、どこをどう通ってきたのか、足元ばかりを見ながら歩いて来たので、全く覚えていないのだ。
 我に帰ると空腹に気付き、お腹がグルグルと鳴った。食事をしたいと思ったのだが、どこのお店へ入れば良いのか分からない。
 向こうの方に、ピエロの人形が立っているお店が目についた。多くの家族連れが出入りしているようなので、そこへ入った。人並みに押されるようにして二階へ上がってしまった。カウンターの前に一つの空席があったので、仕方なく腰を掛けた。注文に迷っている時、お茶を運んできた女店員が
「今日は、『まむしの上』がサービスですねん。美味(おい)しいでっせ」
と勧めたくれたので、何も考えずにそれを注文した。
 奇遇にも奈々子は何も知らないで、日こそ違え、真美子と同じ店で同じ料理を食べたのである。
 空腹が満たされると、今まで重く沈んでいた気分が何故だか急にスッキリと晴れて来た。満腹感が、それまでの暗い気分を変えたのだ。
「そうやわ。折角、ミナミへ来たんやから、法善寺へ寄って帰ろう」
お茶を飲みながら考えた。会計の女性に法善寺までの道を尋ねると、すぐ近くだと分かった。
 店を出ると、見えていなかったモノがやっと目に入ってきた。やはりミナミは、若い人の溢れる繁華街であった。教えられた通りに歩けば、法善寺はすぐそこであった。
「ここは縁結びで有名やから、良くお参りをしておこう」
お寺からお線香を買い、火を着けて奉納した。そして、水かけ不動尊に柄杓で何杯も水を浴びせた。そして深々とお参りしたのであった。
『二郎さんとのこと、ぜひ宜しくお願いします』心からの願いであった。
「あのう、すみません。天王寺の駅へ行きたいんですけど・・・」
お寺の人に帰る道順を尋ねた。
「ここをまっすぐに行ったらええねん。広い道を右に行ったらな、国鉄の湊町駅に行けるで。電車に乗ったら、天王寺はすぐやで」
親切に教えてくれた。大阪の人たちは、やさしい人が多いのだろうか。

  

つづく

今度はシメジ❣
IMG_6570[1].JPG
 
posted by はくすい at 12:23| Comment(0) | 虹のかなた
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: