2020年05月12日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(68)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(68)
 
休憩の後、全員で地稽古を行ない、夕方の五時過ぎに全日程を終えた。何時も何かと賑やかな奈々子であるが、今日は不思議に静かであった。自分のチームより離れず、時折、二郎に笑顔を見せるだけであった。
 真実子はずっと身構えていたのだ。奈々子が、僅かでも二郎につきまとうような素振りを見せれば、絶対に一言、文句を言ってやろうと、待っていたのである。顧問の先生方がその場にいてもかまわない、言ってやるんだと身構えていたのだが、奈々子は大人しくしているので、多分に拍子抜けであった。それは、先日の海岸での出来事が一番の原因なのだが、それを知っているのは、二人の当事者だけなのだ。
 苅川は、奈々子の姿ばかりを目で追っていた。先ほど、中庭で声を掛けて貰ったのが、それほど嬉しかったのだ。
  
 出島商業が去ったあと、剣持先生は部員を一同に集めた。行事が無事に終ったのを、ねぎらってくれるのだ。と、安心して集まった。今まで穏やかだった顔つきがにわかに烈(はげ)しくなり、突然、大きな雷が部員たちに落ちた。
「お前らは、いったい何を考えているのや! 今日の試合はどないしたんや!不細工な試合をしおって。俺はなァ、負けたのを言うとるのではないぞ! 試合に対する根性が、全くなってないやないか! 勝とうという気迫が全然感じられへんかったぞ。相手や廻りの者ばかりの気を伺うて、攻め込もうという気持ちがあれへんのと違うか。そんなんでは、来て貰った相手に対して大変失礼やないか! 練習試合やから負けてもかめへん。けど、もっと根性の入った試合をやれ! 俺はなあ、古山先生に対して面目が立たへんのや。今度こんな不細工な試合をしてみろ、思いっ切りドツキ廻すど! 」
ブルッと身震いをした。今にも殴られるかと思った。鬼瓦のような顔で、こめかみに青筋を立てて先生は声高に叱った。
 剣持先生とは、まだホンの短い師弟の間であるが、こんなに先生が激怒されたのを見たことがなかった。本当に申し訳ないと思った。リーダーは自分なのだ。自分が奈々子などに気を惹かれなければ、こんな恥ずかしい結果にならなかっただろう。相手と四ッツに組んで、根性の入った試合をしておれば、先生にこんなにも腹を立たせなくて済んだ筈なのだ。そう反省した。
 部員たちは首を深くうなだれて、先生の言葉を聞き入っていた。
「先生! 申し訳ありませんでした。ボクらの努力が足らんかったんです。これからは、もっと頑張りますから、宜しくお願いします」
深々と頭を下げて先生に謝った。ここで自分が先生に謝らなければ、この場の収拾がつかないと思ったからだ。どうしても、先生の怒りを納めなければならないのだ。
「お前たち、反省しているんやな! 」
全員を見回しながら、先生は念を押した。
「ハイッ! 」
全員が一斉に答えた。それを聞いて先生は
「ヨシッ! そんならもうええ。早う着替えて帰れ」
そう言い残して、固い表情のまま道場を出て行った。
 気落ちした部員たちは後片付けを手早く済ませると、早々に引き上げて行った。晩春の五月半ばの夕方なのに、風は肌に冷たく感じられた。
「あーあ、今日はあかなんだなあ。なんで、あんなにガチャガチャした試合になってしもたんやろ。勝てん相手ではなかったけどなあ・・・」
帰る道すがら、真実子に話し掛けた。後ろには苅川と恵がいる。
「そうねえ・・・。勝たなアカン、という意識が強すぎたんと違うかしら。気が急(せ)いたらやっぱりアカンのよ」
「やっぱりなあ・・・。稽古のやり直しや。もっと稽古せなアカンなあ」
真実子の方を見ると、キッと前を見つめながら歩いている。表情は固いが、静かな闘志が燃えているのか、目がキラキラと輝いている。夕焼けに栄えるその顔はピンク色に染まり、とても美しい。
『やっぱりボクは、長岡さんよりも、草山さんの方が良いと思う・・・』
心の中でつぶやいたのであった。
 後ろでは恵が苅川に、奈々子に注目していたのを注文付けしていた。この苅川はいつも恵に対して分が悪く、今も平謝りの連続であった。そして、走って逃げたその後を恵が追いかけるという、いつもの有様となった。
 
  

つづく

お次は筍
IMG_6365[1].JPG


こうなりました〜^^
IMG_6366[1].JPG



posted by はくすい at 22:18| Comment(0) | 虹のかなた
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: