2020年02月25日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(57)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(57)
 
「ねえ、アタシがお掃除をしても良いでしょ、ねえ・・・」
目を見つめながら手を取った。慌てて手を引込めたが、うまく行かずに取られてしまった。
『えらいこっちゃ! どないしょう・・・』大いに慌てた。こんな場面を、誰かに見られたら大変だ。親の居ない家で、若い男女が二人で居るというだけで、この町中の噂になってしまうだろう。それも、決して良い噂である筈がないのだ。ましてや、隣の真実子に見られてしまえは、どんな弁明も成り立ちはしないであろう。
「ゴメンな・・・。長岡さん、ボクは一人で出来るんや。今日も朝から掃除をやったし、洗濯も済んだんや。ボクは、誰の世話にもなりたくないねん」
必死になって説明した。そして無理矢理に手を離した。
「そんな・・・。そんなら、アタシは邪魔なんやね。二郎さんには不要の人間なのね。お役に立ったらアカンのね・・・」
奈々子の顔は悲しげに曇った。眉をひそめ目を閉じて、泣き出しそうな表情になった。掃除をするべく白のトレーニングパンツにブラウス姿だ。
「まあ、そんなこと言わんと・・・。ここではナンやから、中に入って」
茶の間に招き入れた。中へ入れば誰にも見つからないのだ。
 卓袱台の前へ座布団を出して勧めた。彼女は頷き、物珍しそうに部屋の中を見回しながら座った。
「お茶でも入れるから・・・」
立とうとすると、突然
「お茶はアタシが入れるワ。台所はこっちね。二郎さん、座っててね」
スッと立ち、台所へ行った。慌てて制したが、行動は彼女の方が早かった。
「お茶碗はどれでも良いわね・・・。急須は、ア、これね」
誰も居ない台所で奈々子は自由に振舞った。それをただ黙って見ているより仕方がなかった。台の上のポットには、沸いたお湯を入れてあるので、すぐにお茶の用意が出来た。
「さあ、お茶が入ったわよ。二郎さん、どうぞ」
卓袱台の上に、湯呑みを二ツ置いた。まるで、自分の家に二郎が訪れて来たような、そんな仕草であった。
「あ、おおきに・・・」
仕方なく礼を言い、卓袱台の湯呑に手を着けた。
「長岡さん、さっきはキツイことを言うてゴメンな・・・」
口を開いたのは二郎が先だった。
「ううん、良いのよ。アタシの方が出過ぎたみたいね・・・。二郎さんがこんなにしっかりしているなんて、アタシ、ナンにも知らなかったから、この家に来てしまったのよ。でも、来て良かったと思ってる」
「そう・・・。そう思ってくれるの? 」
「アタシは、二郎さんのお役に立ちたいのよ。そやから、いろんな用意をしているのよ。お掃除や洗濯もあるでしょ。お料理もしてあげたいのよ」
「おおきに。ボクなんかに気を遣うてくれるなんて、申し訳ないわ。今日は休みなんやから、長岡さんには色んな用事があるんやろ。それやのに、こんな所へ来て貰うなんて、ゴメンな」
「ううん、良いのよ。でも、嬉しいわ。アタシは二郎さんに会いたかったのよ。二郎さんったら、仲々会ってくれないし・・・」
「そんな無理を言うたらボク、困るで。学校が違うんやし、クラブも忙しい。それに、お互いに遠いんやから、仕方ないやんか」
「そうか・・・、そうやねえ。ねえ、二郎さんのお部屋、どこ? アタシに見せてよ」
大きく頷きながら、奈々子は言った。
「うん・・・。そこやけど・・・」
答えたとたん、奈々子の目がキラッと輝いた。

  

つづく


香川産詫間の牡蠣 一斗缶で購入^^
IMG_5879[1].JPG
posted by はくすい at 15:29| Comment(0) | 虹のかなた
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: