2020年02月13日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(55)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(55)
 
五月三日、憲法記念日。病院へ祖父の見舞いに行った。ベッド上の祖父を見て驚いた。まるで死体がそこにあるように見えたのだ。
 顔には血色がなく、目は閉じて動きはない。はだけた寝間着の間からは骨格が目立ち、とても痛々しい。胸が僅かに動くのを見て、まだ大丈夫なんだと安心した。あの恰幅の良い祖父は、どこへ行ってしまったのだろうか。
「おじいちゃん。ホラ、二郎兄いやんが来てるで」
恵美子が祖父の耳元に大声で言った。すると祖父は僅かに目を開いた。
「ジロウ? 二郎が来たんじゃと・・・? ワシは・・・、起きるぞ」
そう言いながら両手を伸ばし、起きあがろうとした。
「おじいちゃん、無理せんでもええで。そのまま寝といて・・・」
心配のあまりそう言ったが、由美が背中を支えて上半身を起こした。
「二郎は元気なんか・・・。剣道、しっかりやってるか。ワシは、お前のことが心配での・・・」
つぶやくように言った。下向き加減なので、耳をそばだてなくては聞き取れないような、か細い声である。
「これから陽気が良くなるからね。無理をせんと、病気を早く治そうね」
祖父の手を取り、耳元で励ますように言った。うつろな表情で前を向いてはいるが、目は焦点が定まっていないようだ。
「ワシはまだ、死ぬわけにはいかんのじゃ。まだまだ・・・」
そこまで聞こえたが、あとはもう何を言っているのか分らなかった。
「おじいちゃん。あんまり喋ると疲れるから、寝ましょうね」
由美が祖父を寝かせた。こんな姿を見るのは忍びない。悲しかった。もう二度と、元気にはならないのだろう。
「おじいちゃん、この前まで元気やったのに、もうあかんのやろか・・・」
恵美子が悲しそうに言った。たまりかねて病院の外へ出た。
『これも運命や。人間はいつかは死ぬんやから、しょうがないんや。おじいちゃんの分まで、自分が生きればいいのだ』そう心に言い聞かせた。

  

つづく

何でも燻します^^
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posted by はくすい at 15:27| Comment(0) | 虹のかなた
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