2020年01月07日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(47)M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(47)

その二 悲しみと苦しみ(47)
 
市役所を離れ、公園を東に行くと立派なルネッサンス様式の建物、中之島図書館がある。今日は祭日なので休館である。それで、中央階段の所で写真を撮った。図書館の隣は、赤いレンガ作りの中央公会堂である。これも又、見事な建築物だ。その建物の横や正面でも写真を撮った。
「兄ちゃん、二人で撮ったろか。ワイがシャッター押したるで」
写真が趣味だと言う中年の男が申し出たので、二人並んで撮って貰った。真実子と写真を撮るなんて、初めてであった。
 柳並木の所に、自転車に箱を積み、旗を立てている小父さんが居た。大阪名物の『アイスクリン』を売っているのだ。それを二ツ買った。円錐形のコーンの上に、球形のシャーベットをポンと乗せた。汗ばむほどの陽気に、ほんのりとした甘さが喉を潤し、冷たさが気持ち良かった。
 水辺に浮かんでいる様な中之島公園では、色とりどりな花が咲いている。真実子の表情は晴々れとしていた。こんな彼女をモデルにしていると、いくらでも写真を撮りたくなってきた。一本で十二枚しか撮れないブロニーフィルムでは、到底足りないのだ。
 公園中央の橋を渡った所に土産物屋があった。そこでフィルムを売っていたので、一本買った。隣の店は貸しボート屋となっていて、空ボートがずらりと並んでいる。
「ボートに乗ろうか。ボクは漕げるよ」
「ホント? うれしいわ・・・」
木の桟橋を渡って行った。真実子は恐る恐る付いてきた。
「おっちゃん、ボート貸してえな」
「おう、おおきにな。今日は天気がええさかいに、ようけえ出てるんや。兄ちゃん、ぶつからんようにしいや」
愛想よく笑いながら、ボートを用意してくれた。二人が乗り込むと、小父さんは長い竿の先でボートを勢い良く川の方へ押し出した。
 川の流れは思ったよりもゆったりとしていて、オールで漕がなくても流されないように思えた。オールを力強く漕いだ。するとボートはスーッと前進するのだ。気持ちの良い風が川面を流れている。公園の周りには木々の新緑に陽光が映えて、見るからに爽やかで美しい。
 真実子はとても気分が良かった。父親の見舞いを強要し、二郎を無理矢理(?)に連れ出したのだ。見舞いを形式的に手早く済ませ、その後、この大都会でのデートに誘い込んだのである。彼女の作戦の見事な成功であった。
 ボートの横へ手を出して、水にくぐらせても冷たくは感じなかった。わずかな浪にゆれながら、頬をなでる風の優しさにうっとりとなった。何よりも目の前には大好きな二郎が居る。今、映画のロマンスな場面を二人で演じているような、そんな、夢のような雰囲気に浸り切って、幸福感で一杯だった。このままの時間がずーっと続いてほしい・・・、とフッとなりかけた時、ふいに『ガタン! 』と音がしてボートが大きく揺れた。ハッとして我に帰ると、二人のボートの舳先が、よそのボートに当てられたのだった。
「あっ! 危ないっ! 」
二人はとっさにボートの端を両手で掴んだ。相手のボートにも若い男女が乗っていた。その二人は恐怖で顔がひきつっている。見ると、オールの片方が水の上に流れていた。
「オイオイ。気ィつけてえな、危ないやんか。ちゃんと漕いでや」
やんわりと文句を言った。片方のオールで相手のボートを突いて、お互いの間隔を開けた。だが、まだ相手の男女の顔は硬直したままだった。
「ああ、びっくりした・・・。アタシ、ひっくり返るかと思ったわ」
真実子は本当に恐かったのだ。胸の前に両手を握りしめて言った。
「ほんまや。交通のルールを守らなあかんのに、しょうのない人たちや」
そう言いながら、自分でもおかしいのに気付いた。川の上に、交通のルールがあるのだろうか。あっても不思議はないと思うのだが。
「もう上がろうか、お昼前やしな」
「そうねえ・・・。面白かったわ」
ボート溜りに近付くと、小父さんが鈎付きの竿で引っ張ってくれた。
「やあ、お帰り。さっきは危なかったなあ。もうちょっとで相手がひっくり返るとこやったで。あんな下手な人らが居るから、儂らが困るんや」
愛想笑いを浮かべながら言った。
「おおきに。ほな、さいなら」
岸へ上がり、元来た公園の方へブラブラと歩いた。

  

つづく

鹿肉を頂いたのでビーフジャーキーならぬバンビジャーキー燻製中(上段はチーズ)
IMG_5412[1].JPG
posted by はくすい at 13:59| Comment(0) | 虹のかなた
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