2019年11月28日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(41)

その二 悲しみと苦しみ(41)
 
駅までの間、七人は一塊りになってトボトボと歩いた。体が綿(わた)のように疲れていて、歩くのも喋るのも、おっくうになっていた。海山道場での練習しか知らないのだから、当然と言えよう。
「しんどいなあ・・・。足が棒のようになってしもた。明日(あした)歩けるかなあ」
「そうねえ・・・。アタシ、明日、休むかも知れへんわ」
「そんな情けない話をしないで。アタシはもっと練習するわよ。やっぱり、強くなるには、稽古しかないのよ、これぐらいの練習を毎日しないとアカンのよ。アタシはやるわよ! 」
「そうや。毎日続けたら、体が勝手に付いて行くようになるんや。ゼッタイに強うなれるで。ボクもやるで! 」
とにかく疲れて、意気が消沈しているのを奮い立たせようと、強い口調で言った。そこで考えた。疲れた時は、甘い物が一番だ。
「なあ、みんな。また、あのぜんざいを食べ行こうや。ボクが奢るよ」
財布の中にはアルバイトの給金が、手つかずに残っている。だから七人分の代金ぐらいは大丈夫なのだ。
「えっ! 本当? 本当やの、山ノ上さん! 」
まっ先に、恵が飛び上がって喜んだ。先程の、疲れ切ってげんなりしていた表情は何処へやら、顔がパーッと晴れて一度に元気になったようだ。そのとたん、恵の腹の虫がグーッと鳴った。それを聞きつけた真実子が笑った。
「そうや。みんなで食べに行こう! 」
 甘党の店へドヤドヤと入った。先客が居たので七人は別々に座った。以前と同様に、ぜんざいは抜群に美味しかった。砂糖の甘いその味が血となって流れ、疲れた体全体に染み渡って行くような気がした。
「やっぱり、ここのぜんざいは旨いなあ。おいしいで・・・」
「当たり前や。奢って貰ってるんやから、余計においしいやろ」
「今度は、苅川さんが奢ってね」
「やかましい! この次は池上さんに頼んどくわ。奢ってや、ええやろ」
「アタシは、食べるのが趣味なんよ。他人(ひと)に奢るのなんか、イヤよ」
「そんなら・・・、草山さんにお願いしょうかなあ」
「良いわよ。このアタシが、苅川さんに奢ってあげるわよ」
「えっ! ホンマに? 草山さん、ホンマに驕ってくれるんか? 」
「ええ、そうよ。この次ね。そうやねえ・・・、十年ぐらい先かな? 」
「ナニッ! 十年先やて? そんなん、殺生や! 」
疲れ果てて、喋るのも苦痛だった連中が、アッという間に元気になってしまった。げに恐ろしきは食べ物である。

  

つづく

ピンクの彼岸花
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posted by はくすい at 16:01| Comment(0) | 虹のかなた
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