2019年11月12日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(37)

その二 悲しみと苦しみ(37)
 
四月の第二月曜日。新学年第一学期の始業式である。校長先生の訓辞のあと、転入赴任された数名の教師の紹介があった。その中の一人の教師が、道場の入口で練習を見ていたあの男だと分かった。ずっと南の方の学校から転任して来た、『剣持(けんもち)』という名前の、数学の教師であった。
 新しいクラスでは、自己紹介から始まった。生徒たちは恥ずかしいのか名前を小声で告げた。後方の席にいるので殆ど聞き取れなかった。名前が分からないと何事も始まらない。自分の名前を大きな声で言ったあと、
「ボクは、剣道部員です。海山道場で毎日、練習をしています。興味のある方は、どうぞ道場へ来てください。入部も歓迎します」
と付け加えた。これで全員は、山ノ上二郎の名前を覚えたであろう。
 
 新学期の開始と共に、部活も開始した。床を雑巾掛けしているとき、顧問の安田先生が来た。後ろには始業式で紹介された剣持先生を伴っていた。
「剣持先生は数学の担当なんやが、学生時代から剣道の稽古をされており、現在五段である。その上『錬士』の称号もお持ちなのだ。お前たちは知らんと思うが、教職員の選手として活躍されているんや。縁があって今回、ウチへ転任となられたんや。先生はお前たちを鍛えたい、と言うてはるので、儂に代って顧問をお願いしたと言う訳や。良いか! この先生に付いて、強うなって欲しい。分かったな! 」
部員たちは緊張をして、体を固くしながら
「ハイッ! 宜しくお願いしますっ! 」
一斉に頭を下げた。以前、安田先生が『期待しておけ』と言ったのは、この事だったのか、と深く感謝をした。剣持先生が口を開いた。
「剣持です。宜しくたのんます。この前から君たちの練習を見させてもらったけど、俺から言うたら、まだ初心者に毛が生えたみたいなもんや。この中に初段が二人居るらしいけど、全然なっとらん。もっと強うなるように指導したいと思うとるから、しっかりと付いて来て欲しい。今までは指導者が居てなかったから、仕方ないとは思うけど、これからは違うぞ。お互いに頑張ってやろうな! 」
力強く、心温かい言葉であった。
 これからは、まともな指導を受けられるのだ。今迄のような井の中の蛙ではなく、レッキとした錬士五段の先生の指導が受けられるのだ。ワクワクとするのを感じた。この先生に付いて行けば、いつかは出島商業に勝てるかも知れない。そう思った。みんなも同じ思いであろう。
「よし。それじゃあ、今から始めよう。みんな立て! 」
命令以下、すぐに立ち上がった。剣持先生は、片山美紀にガリ版で刷った用紙を渡し、それを各自に配らせた。
「先ず、ランニングから始めるぞ。コースはその地図の通りや。三十分ぐらいで走って来い。それ、行け! 」
用意する暇もあったものではない、慌てて靴を履いて外へ出た。
「みんな、行こうぜ! 」
一斉に掛け出した。

  

つづく


鉄道研究部
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写真部
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posted by はくすい at 13:04| Comment(0) | 虹のかなた
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