2019年02月28日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(103)

その一 異郷の空へ(103)
 
十二月三十一日、大晦日。母と二人で大掃除をしたが午前中に終了した。里子がお茶を入れたので、茶の間で休憩した。
「二郎。剣道部を創ったと言うとったけど、部員は、ぎょうさん居るんか?指導の先生はどうなんや、しっかりしてはるんか? 」
父の質問に、答えるのに困った。だが、事実を言うしかない。
「部員は全部で八人なんや。二年生が二人で一年生が五人。それにマネージャーの女の子が一人や。顧問の先生は居たはるけど、剣道は出来へん。指導者が居れへんから、ボクらだけで稽古してるんや」
「そうか・・・、指導者が居れへんのか。それはちょっと淋しいな」
「うん。そやから、試合に出ても負けてばっかりや。この前の練習試合なんかも、ボロボロに負けたんや」
「ボロ負けか、それはイカンな。お前の成績はどうなんや」
「ボク? ボクも負けてばっかりや」
成績を問われて、憮然となった。
「お前は、大阪に居った時は結構強かったやないか。それやのに、和歌山へ来たら勝たれへんのか? 」
「そうやねん。夏には勝った相手やのに、この前は負けたんや。なんで負けたんか、よう分からへんのや」
「ふうん。そうか、やっぱりなあ・・・。お前は気が優しい処があるよってにな、それが影響してるかも知れへんなあ。剣道は根性や。どんな競技でも一緒やけど、気が強うないと勝たれへんのや。勝負とは、相手をやっつけるのではのうて、自分で、相手に勝つんや。それが相手に対する礼儀と言うもんや。お前には、それがあれへんのと違うか? 大阪に居った時と、今の顔とでは大分違うように思うがなあ。なんか『鋭どさ』というものが抜けてるように感じるぞ。俺はお前の父親やよってに、それが分かるんや」
父親の言葉にギクッとした。それは見事に胸中を突き刺していた。
 気付かぬ内に、大阪で持っていた強い根性が、この田舎の町へ来て無くなってしまったのか。そう言えば思い当たる節がある。出島商業の合宿の試合では成績が良かった。期待の新人三人の内、二人から勝利を得たのだ。それなのに、先日の練習試合では相手から一本も取れずの完敗であった。
 その原因は何だろう。ここへ来てからの体験と言えば、それは、女性との問題しかない。長岡奈々子と映画を見に行った事や、隣家の草山真実子とクラブや通学が一緒だと言う、今までに無かった甘い環境が、自分の根性を弱らせたのだろうか。ジッと父親の重い言葉を噛みしめた。
「オイオイ。あんまり深こう考えたらあかんぞ。今日は大晦日やよってに、今年の事はみーんな忘れたらええのや。元旦から新しい年が始まるんや。そやからまた、一からやり直したらええんやぞ。分かったな」
父親の武二郎は、ふさぎ込んでる息子にやさしく言った。
『そうなんや。やり直すのが一番や! ゼッタイ、そうするんや! 』
心の底に強く決心した。
「今夜はねえ、お祖父(じい)ちゃんに挨拶に行きはるのよ。一緒に行こうね」
気遣った母が横から言った。父が帰ってからは、祖父の家へは誰も行ってはいない。妻の実家へ挨拶に行くのは当然の筋である。

  

つづく


寒い雨の日は蒸し寿司も良いですネ
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posted by はくすい at 16:44| Comment(0) | 虹のかなた
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