2019年02月26日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(102)

その一 異郷の空へ(102)
 
駅前からバスに乗り、先ずは父が一度も訪れていない、自宅へ着いた。
「ほう・・・。仲々、ええ家やなあ」
玄関に入ると、独り言のように言った。里子はいそいそと、氷式の冷蔵庫からビール瓶を出してきた。コップを卓袱台に置き、注ぎながら言った。
「お祝いやから、お寿司を頼んであるのよ」
「そうか。それはすまんな」
コップを手に一気に飲み干し、フーッと息を付いた。そしてその後、
「二郎。お前は、大したことをやったらしいな。剣道部を創ったんやてな。道場も、一人で苦労をして整理した、とお母はんの手紙に書いてあったで。立派なもんや、俺はホンマに感心したで」
「立派やなんか、あれへんよ。ボクは剣道がしたかったし、みんなが集まってくれたんや」
褒められて少し照れた。それを隠すように火鉢の練炭を火箸で突いた。パチパチと小さな音を立てて、赤い火花が散った。
「そうや、お前に土産があるんや。その鞄を取ってくれ」
言われた通りに鞄を渡すと、中から四角い紙包みを取り出した。
「これや、これ。お前が欲しがっていた写真機や。ほら」
「えっ! ホント! お父はん、これっ、ボクが使ってもええんか? 」
両手で受け取りながら、目を瞠(みは)った。包んである紙をめくると、四角い箱の表には、『リコーフレックス』と印刷されてある。
 箱を開けると、ピカピカの写真機が姿を現わした。最近流行中の二眼レフ式である。レンズが上と下とに付いてあり、上がピント用で、下が撮影用なのだ。今時、一万円以上はするだろう新品の写真機を、手にするのは初めてであった。それも、自分のモノに出来るなんて、まるで夢のようだった。
「良かったわねえ、二郎ちゃん。良いお土産を貰って」
声を掛ける母の頬に、一滴(しずく)の涙が流れた。
「おおきに・・・、お父はん。ボク、嬉しいで・・・」
弾む胸を押さえながら、心から礼を言った。

  

つづく


頂いた牡蠣で牡蠣ご飯黄ハート
IMG_2119[1].JPG

  
posted by はくすい at 15:55| Comment(0) | 虹のかなた
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