2019年02月21日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(101)

その一 異郷の空へ(101)
 

年末の駅は閑散として、人影は少なかった。晴れ上がった空が清々しい。だが冷たい風が流れており、ピリピリと肌を刺している。周りの山々には、名物のみかん畑が段々と重なっていて気持ちが良い。 
 やがて汽車が到着した。父・武二郎に会うのは久し振りである。この町へ母子(おやこ)が来てから父は、一度も来てはいなかった。自宅を手放なす程、事業に苦労していたから、妻の実家へは顔を出しにくい事情はよく解かるのだが、今迄に一度か二度は顔を見せて欲しかった。そう思っていたのである。
 三両目のデッキから父が降りてきた。両手に大きな荷物を持っていて、さも重そうにしながら、ゆっくりと改札口へ歩いて来た。
「おはようございます! 」
先に声を掛けたのは里子であった。改札口を通りながら父は
「おう! お早う! 」
と応えて右手を挙げようとしたが、荷物が重いのか半分ほどしか挙がらなかった。父の顔は血色が良くて、元気そうだ。上等の洋服を着たその姿は、大阪で苦労している様子など微塵も感じさせなかった。
「お父はん、お帰り」
声を掛けて、父の左手から大きな荷物を受け取った。ズシリと重い大きな鞄であった。里子は喜びを隠しきれない表情で、そっと夫に寄り添った。半年振りの再会であった。父から母宛に、手紙が毎月の様に届いてるのは知っていたが、今こうして、この駅で父を出迎えるのは、初めてであった。
「二郎、これを頼むぞ」
「うん、分かった」
チッキで届いた荷物を取りに行った。これも大きな鞄が二ツであった。


  

つづく


春近し・・・
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posted by はくすい at 15:57| Comment(0) | 虹のかなた
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