2019年02月19日

祝!連載100回 M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(100)

その一 異郷の空へ(100)ぴかぴか(新しい)
 

駅前で別れ、汽車に乗った。客室に入ると、真実子はコートを脱いだ。ごく自然な行動であったが、その後ろ姿の、白いうなじを目にして心に強い衝撃を受けた。胸がキュンと鳴った。
『うわっ! メッチャ綺麗やんか! 』思わず口の中でつぶやいた。苅川の存在は気にならなかった。気付いたのか、真実子が怪訝な顔で首を傾(かし)げた。「どうしたの? 山ノ上さん。アタシの顔になにか付いているの? 」
「いや、なんでもないんや」
「そうお? けど、なんかヘンやわ。おかしいわよ」
真実子はジッと二郎を見た。どうしょうかと思ったが
「うん。ホンマはねえ、今日の草山さんは、えらい綺麗やなあ・・・、と思うて、見取れてたんや」
本当に思っていることを口に出した。
「マアッ! 山ノ上さんって、急にナニを言い出すのよっ! 苅川さんもここに居るのに、アタシ、恥ずかしいやんか! 」
右手を振り上げて、叩くような仕草で、恥ずかしそうに言った。上目使いで紅潮したその顔が、又もや可愛いと思うのだった。
「オイオイ、ここは公衆の面前やで。そんな話は降りてからにしてや。オレには迷惑やで」
プイと横を向きながら苅川が言った。だが彼は、この二人が仲が良いのは以前から良く知っているし、そうあるべきだと思っているのだ。
帰ると母が縁側の掃除をしていた。『オヤ? 』と気付いた。それは、母が鼻歌を口づさんでいるのだ。母の歌声などは、長い間聞いていなかった。この町に来て以来、慎ましやかにして懸命に生活してきた彼女にとって、鼻歌など忘れた行為だったのかも知れない。
「あら、二郎ちゃん、お帰り。今日は早かったのね」
「うん。稽古納めやったんや。明日(あした)から練習も休みやねん」
「そう、よかったわねえ」
雑巾を絞りながら、言葉を続けた。
「さっき、伯父さんの店へ電話があってね、明日(あした)、お父さんが帰って来はるのよ。お正月はずーっと、このお家(うち)に居たはるんやて」
思い掛けない良い知らせであった。それに連泊とは、嬉しい限りである。
「えっ! 本当! お父はんが帰って来はんの。それは嬉しいなあ。久しぶりやもんなぁ・・・。そんで、仕事はうまいこと行ってるんやろか? 」
「ええ、悪くはないそうよ。結構、利益があるって言うてはったわよ。十一時の汽車や、と言うてはったから、一緒に駅までお迎えに行こうかねえ」
「あっ、それええな。そやけど、お母はんの仕事はええのんか? 」
仕事とは、映画館のキップ切りである。当時、こんな田舎の映画館では一ヶ月の内、半分ほどの日数しか営業していなかった。また、お正月も元旦から三日間は休業で、四日からの上映であった。
「ええのよ。劇場はお休みやから、大丈夫よ」
「そうか、それやったらええな」
「明日、お餅付きがあるのよ。それが終ってから、一緒に駅まで行こうよね」
「ウン、分かった。十一時の汽車やな」
やっと、母の鼻歌の原因が分かった。半年ぶりに夫に会えるのだから、嬉しいのは当然であろう。
十二月三十日。祖父の家で餅つきを行なった。今年は山ノ上家の分が増えたので、昨年よりは量が多くなったそうだ。だが二郎という男手が加わったので、早く終った。父を迎えに行くのに、丁度よい時刻であった。

  

つづく


 何城かな?
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posted by はくすい at 15:24| Comment(0) | 虹のかなた
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