2019年01月24日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(93)

その一 異郷の空へ(93)
 

「練習試合には勝ちたいなあ。一本でもええから、納得出来る打ちをして見たいよ」
「勝てるわよ。勝つ気になるのよ。アタシは絶対に勝って見せるわよ」
「ホンマやなあ。自分に負けたらアカンのや。相手に勝つんや」
「そうよ、その意気よ。山ノ上さん、ファイト! 」
真美子と喋るのは、とても楽しいのであった。そんな中、奈々子の手紙が一瞬、脳裏をよぎった。急に顔が熱くなり、胸がドキドキと鳴った。なにか、恐ろしい爆弾を抱えているようで、真実子に対する僅かな罪悪感が心の中に湧いてきた。だから、急に黙って下を向いてしまった。
 真実子はそんな、感情の変動を見逃す筈はなかった。だけど、その心の動きが何であるのかは知る由もないので、そ知らぬ振りを装うしかなかった。
 
 出島商業への遠征の日となった。朝から小雨混じりの強風が吹いていた。南国紀州と言えど冬は寒いのだ。雪にはならないものの、体感温度はぐっと低く、身を切るような冷たさである。いくら天候が悪く寒いからと言って、こちらの都合で練習試合を中止する訳にはいかないのだ。
「オーッ! 寒いなあ、風邪引かへんかなあ・・・。たまらんわ」
白い息を吐き、担いでいる防具袋を揺らしながら不田が走って来た。
「寒いわねえ・・・。でも、これ位の方が気合いが入って良いのよ」
横から、頬を紅潮させた真実子が言った。
「そうや、こんな寒さに負けたらアカンのや。相手も寒いのやで。自然はみんなに平等なんや」
みんなの顔を見ながら口を開いた。どの顔も寒さで頬が真っ赤であった。鼻をすすりながら、恵が苅川に向かって言った。
「アタシはねえ、寒さには強いんよ。これくらいは平気やわ」
「そらそうやろ。オレらとは皮下脂肪の出来が違うんや。がいに(大変)分厚いもんなあ。そやから、平気なんよら」
「ナニ言うてるのよ。毎日、摂ってる栄養が違うのよ、栄養が・・・。アタシはねえ、何でも感謝しながら食べてるのよ」
「やっぱりなあ。けど、オレは毎日、ビフテキを食ってるで。それでも誰かさんみたいに太ってへんで。なんでやろ? 」
「ほっといてちょうだい! アタシは、これで丁度ええのんよ」
二人の掛け合いに大笑いになった。
 予定の時刻の汽車に乗った。車内はスチームが良く効いており、温かくて気持ちが良かった。だが、この温かさが実は曲者なのである。向こうの駅から出島商業まで、この寒さの中を十分以上も歩かねばならないのだ。今、こうして体が温まってしまうと、それが思わぬ苦痛となるのである。
『道場の床は、むっちゃ冷たいやろうな』これから始まる練習の厳しさと、技量の格差に苦労をするに違いない部員たち、それを思いやった。
「先輩。この前の地区大会なんですけど、出島商業が優勝したんですよ。大したもんですわ」
「へえーっ、そうなんか。やっぱり強いんやなあ・・・」
「ええ、新聞のスポーツ欄に載ってましたよ」
苅川と浦山が話していた。
『優勝』と聞いて、胸に突き刺さるものがあった。
「相手が強いんやったら、やり甲斐があるわね。弱かったら手を抜いてしまうけど、強かったらドンドン行くわよ。ガーンとやってやるのよ」
手振りを混えて話す真実子の言葉に、気の強さが良く滲み出ている。
「そうやわ、アタシも負けへんで・・・。女の意地を見せてやるんや! 」
池上恵も鼻息荒く言った。だが地区大会の時も、試合直前迄は強気だったのに、結果は散々だった。その繰り返しになるのではないか、と案じた。

  

つづく


少し遅いupですが、残り恵比寿行って来ました。お多福飴がお高いこと〜!
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posted by はくすい at 11:50| Comment(0) | 虹のかなた
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