2018年10月30日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(74)

その一 異郷の空へ(74)
 


 三日後。いつもの通学列車に乗った。その車両の中で、隣家の草山親子に出会った。思い掛けない再会だったので驚いた。
「山ノ上さん。おはようございます」
先に声を掛けたのは、娘の真実子であった。尾道市の学校で着ていたであろう見慣れぬ制服の姿であった。慌ててペコリと頭を下げたが、口はゴモゴモとして言葉にはならなかった。
「実はね、この娘(こ)は、海山高校へ転入することになったんですよ」
ニコニコとしながら、母親が言った。
『ああ、やっぱりそうなのか』と思った。
「一昨日(おととい)、前の学校から手紙が来ましてね。書類を海山高校へ送ってあるので、試験を受けなさいって通知があったんですよ。それで昨日、海山高校へ行って、決まったんです」
「そうなんです。アタシも心配やったんですけど、山ノ上さんと同じ学校へ行けるようになって、嬉しいわ」
気嫌良く話す、草山親子の表情は明るかった。
 知人のいない田舎の町へ来た親子にとって、一人でも知り合い(と言えるかどうか)が居るとなれば、少しでも心丈夫なのだろう。
「そうですか、ボクと同じ学校ですか。それは楽しいですね」
と本音を言った。この草山真実子と話すのは何故かしら、とても楽な気分であった。彼女とは、三日前に一度会っただけなのだが、再び言葉を交わしてみると、以前からの友人のような感じがするのだった。長岡奈々子に対して起こるような『顔面紅潮』『脈拍上昇』『脳内空白』などにはならないのだ。
「昨日、分かったんですけど、海山高校って随分古い学校なんですねえ。前の学校もそうでしたけど、だいぶ違うみたい。古い、という事は、それだけ歴史があるんですよねえ。アタシ、古い学校って興味があるんですよ」
真実子の言葉には含蓄があった。初めて海山高校へ行った時、そのような事を考えたであろうか。そう思うと少し恥ずかしく感じた。
「そうなんですよ。校舎も古いけど、それに負けへんぐらい古い先生も居てはるよ」
もう少しマシな、内容のある言葉を言いたいのに、口から出てこない。それがじれったかった。
 この車両には、海山高校の生徒が何人も乗っている。同じクラスの生徒としては苅川(かりかわ)純夫(すみお)と言う、細く骨張ばった男が居た。


  

つづく


のんびりと姫路城お堀周りの遊覧30分(A31津田義貞氏撮影)
のんびりとお堀周りの遊覧30分.jpg
posted by はくすい at 15:31| Comment(0) | 虹のかなた
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: