2018年10月23日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(72)

その一 異郷の空へ(72)
 

道場の中央へ三人が腰を下ろした。不田と井仲がその中へ加わろうとしたが、首を振って押し止めた。美紀は二郎の横に正座した。
「この前、妹さん達と話してた片山さんです。けど、話合いなんかではありません。はっきり言うてイジメです! この片山さんがいやがらせをされ続けて来たんです。あの時も無理に連れ出されたんですよ。五人対一人で正常な話し合いが出来ますか? 出来る筈がありませんよ。そうでしょう? 」
胸を張って意見を述べた。美紀が肯定するように深く頷いた。
「ふうん、ホンマか。オレが聞いたのと、ちょっと違うなあ。お前とあとの二人がやな、因縁を吹っかけた、と言うとったんや。女の子をいじめてたなんて、言わへんかったぞ、なあ、おい・・・」
加々田保子の兄と称する男は、正しい論理に言葉が詰まった。そして、小柄な片山美紀を不思議そうに見ながら、相棒に応援を求めた。
「そうやなあ。『剣道部の連中にボロクソに言われた』と言うとったなあ。そやからオレら、文句を言うたろと思てたんや。けど、ナンか違うな」
細い男は、下を向きながらボソボソと喋った。
「加々田さん・・・でしたね。ボクたちは九月から、剣道部を創って練習を始めたんです。どんなスポーツでも一緒やと思いますけど、悪い事をしたらアカンのです。ボクたちは他人(ひと)をいじめたり、騙したり、そんなアホなことはゼッタイにやりませんよ」
その言葉を聞いて加々田保子の兄の表情が、急ににこやかになった。
「そうか、そやろなぁ。実はな、もう引退したけど、オレもバスケット部におったんや。これでも県のベストフォーまで行ったんやで。オレらは受験前やから、勉強ばっかりで校内の事なんか分かってへんのや。お前の話を聞いたら、妹の方が悪いのやろ。お前がええ奴やと分かったから、もうええわ」
そう言うと、加々田保子の兄は立ち上がった。そして相棒を促すと
「そんじゃあ、な」
片手で合図をすると、二人は道場から出て行った。
「フウーッ! 」
大きく溜息をついた。緊張が解放されて、肩の力が急に抜けた。とたんに額から冷や汗がドッと出た。
「山ノ上君、ようやったぞ! 」
「山ノ上さん、良かったわ・・・」
「ホンマや。ようやったわ」
全員が周りに集まった。感激の一瞬であった。
「さあ、みんな! これからも頑張ろうな! 」
ドッと歓声が上がった。その中で一人、片山美紀だけが涙を流していた。顔は笑っているのに、涙が頬を伝っているのだ。余程嬉しかったのだろう。


  

つづく


菩提寺 墓参り帰路の白鷺城(A31津田義貞氏撮影)
菩提寺 墓参り帰路の白鷺城.jpg


posted by はくすい at 15:06| Comment(0) | 虹のかなた
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