2018年10月04日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(69)

その一 異郷の空へ(69)
 

聞けば彼女は同じ一年生であり、名前は片山美紀と言った。こんなか細い女の子を、何故あの連中はいじめたのだろうか、どんな理由があるだろうかと、不審に思った。
「もし、ナンかあったら、ワイらに言うて来たらええで。お前をワイらが守ってやるよ。ワイらは剣道部やよってに、ナンにも恐(こわ)ないで」
井仲が得々として喋った。だが片山美紀の表情は、すぐには晴れなかった。
 とりあえず彼女を道場へ連れて行った。道場には同性の池上恵が居るので安心出来るだろう。事情を説明し、美紀を見学者として椅子に座らせた。部員たちが練習している間、道場の隅でずっと見ていた。
 腹の底から大きな声を出し、激しく動き廻っている。竹刀を握る腕に力がみなぎり、額から汗が噴き出しているのだ。そんな部員たちの練習振りに、少し心が動いたのであろうか、やっと片山美紀の顔にも赤味が差してきた。
 終了後。片山美紀を囲んで、話をゆっくりと聞いてみた。彼女は誕生前、母親のお腹の中で逆子であったそうな。それが原因で、両肢に少し障害が残った。小学校低学年の頃は分からなかったが、高学年になるに従い、周囲から指摘を受けた。それ以来、それが心の中で大きな負担となってしまった。
 中学生の時、病院で下肢の手術をしたので、外観的には殆ど分からなくなった。走りも泳ぎも負けていない。他の運動をしても何等支障は無いのだ。だが、歩く姿を背後から見ると、少しヒョコヒョコと傾(かし)いでいるらしい。それを、今のクラスでは共通のネタにして、嘲笑しているのだと言う。
 理不尽で、卑怯である。味方してくれる女生徒は誰一人として居ないし、毎日が苦痛の連続だ。入学してまだ半年しか経っていないのに、なんて悲しい話なんだろう。母親にその事を何度も相談してみたのだが、
「そんなイジメに負けないで、頑張りなさい」
としか言ってくれなかった。母親としても、どれほど悔しい思いがあったのであろうが。
 先程の五人組のリーダーに対して、精一杯の勇気を振り絞りもう、イジメるのはヤメテ! 」
と抗議をしたのだ。だが五人組は衆を頼んで吊るし上げにかかったのだ。無理矢理、校舎の裏に連れ出され、罵詈雑言を浴びせられたのだった。
『もう、学校へ来るのはやめよう』と決心したのだ、と訥々と話した。
「なんちゅうエゲツない奴らや。人様のやる事と違うやないかい。ワイらは今まで悪さはしたけど、人の道を外した事なんかあれへんぞ! ワイが話を付けたろやないか! 」
井仲が興奮気味に言った。見事な正義漢だ。そんな彼に好感を抱きながら、
「まあ、ちょっと待って」
と押し止めた。これから先、この美紀がどうすれば、いじめられないようになるのだろうか。それを考えるのだ先決だと思ったのだ。
「ねえ、山ノ上さん。片山さんに、マネージャーになって貰ったらどうやろか? 同じクラブやったら助け合えるし、あの連中も手ぇが出されへんのと違うやろか? 」
今まで黙っていた、恵の突然の意見に、
「それやっ! 」
と膝を叩いた。
「それはええ考えや。池上さん、名案やで。そないしょう、それがええわ。片山さん、アンタはどう思う? 」
「ウン。けど、みんなに迷惑が掛かれへんやろか。迷惑が掛かったら、ウチは心苦しいし。それにマネージャーなんか、やった事がないし・・・」
消え入りそうな声で答える美紀に
「大丈夫や! なあ片山さん、そないしたらええ。あとはワイらが守ったるでェ。その代り、学校をやめたらアカンのやで・・・」
自信に満ちた、大きな声で井仲が言った。その声の大きさにみんなは
「ホウッ! 」
と驚き目を丸くした。片山美紀の入部が決定し、剣道部の新・女子マネージャーが誕生したのであった。

  

つづく


大きな金木犀の木でした
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posted by はくすい at 12:01| Comment(0) | 虹のかなた
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