2018年10月02日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(68)

その一 異郷の空へ(68)
 

十月に入ると、恒例の体育祭が行われた。全部活は一時中止となり、その間、体育祭の準備に当てられたのだ。出番は、騎馬戦の馬役と、クラブ対抗リレーである。
 クラブ対抗リレーは、勝利するのが目的ではない。こんな部活がありますよ、というお披露目的なものなのである。本当に競走するのなら、陸上部の連中に勝てる訳がないのだ。
 六人の部員は、竹刀を持って出た。バトン代わりだ。長い竹刀は有利なようであるが、持って走るには大き過ぎた。剣道部を宣伝するのが一番の目的であるから、グラウンドを大いに蛇行し、竹刀を大きく振り回した。リレーの結果、剣道部はドン尻であった。

 体育祭の数日後であった。海山道場へ向かう途中、校舎の横に不審な女生徒の集団があるのに気付いた。授業終了後、生徒たちが校内にたむろしている風景は見慣れていたのだが、この集団だけは雰囲気が違っていた。
 立ち止まってその様子を見ると、一人の女生徒がしゃがみ込んでいて、その周りを五人が取り囲んでいるのだった。中心の女生徒は、顔を伏せて泣いているようだ。立っている連中は? と見ると、その一人に向かって、各々が口汚く雑言を浴びせているのだ。
『これは、あの女の子がイジメられているのや! 』そう直感したので、すぐさまその集団に駆け寄った。持ち前の正義感が湧いてきたのだ。
「アンタたち! こんな処でナニをしてるんや! 」
突然の男の声に、五人は驚いて振り向いた。だが、男が一人だと分かると
「なんやのん、アンタにはナンの関係もあれへんで! ウチらの問題や、ほっといてんか。用が無いんなら、あっちへ行け! 」
リーダーらしき長身の女が、喰って掛かった。
「なにを言うてるんや! アンタら、この子をイジメてるんと違うんか! 」
そんな女には一歩も退かない。
「イジメてるやてェ? アホなこと言うたらアカンで。気ィ付けてモノ言いや。ウチらはなァ、この子と、ちゃんとした話し合いをしてるんや。そやから、アンタには関係ないと言うてるやろ! 」
「そやそや! これはウチらの問題やで。お前には関係ないんや! ほっとけや。ケンカ売るんなら、買うたるで! 」
背の低い太めの一人が、ギョロッと目を剥(む)きながら口を挟んだ。泣いていた女生徒はヨロヨロと立ち上がり、懇願するような目を向けた。
「そうか、話をしてるんか。それやったら、その子を帰してやれよ。これ以上、話を続けんでもええやろ」
キツパリと言った。
「なんやねん! まだ言うてんのか! お前はウチらに命令する気ィか。ええ加減にしとけよ! 」
およそ女生徒とは思えない荒れた言葉遣いだ。それも両手を腰に当てて大股を開き、挑発する態度だ。
背筋をピンと伸ばした。こんな女共に負けてたまるもんか! 
「こっちへおいで。一緒に行こう」
片手を差し出し、女生徒を招いた。
「ナニすんねん! ウチらに刃向かうつもりなんか! 承知せえへんで! 」
その手を振り払い、リーダーが喰って掛かった。相手が五人でも、負けてなるものか、と気を張った時、後ろの方から
「オーイ、山ノ上君。どないしたんや、なにかあったんか? 」
異変に気付いた不田と井仲が走って来た。
「やあ、不田君か。丁度ええとこへ来てくれたで。この五人のお姐(ねえ)さんたちがな、あの女の子をイジメてるらしいのや。それで助けに入ったらな、えらい文句を言われたんや」
「オウ、そうか」
急に不田の顔付きが変った。以前のグレン隊の、恐い顔付きそのままだ。
「オイッ! コラッ! ワイらの部長になにをするんじゃい! 女の子をイジメてるやとォ? なにをさらしとんじゃい、学校の恥さらしやないけっ。お前らはアホばっかりか。さっさと帰りくされっ、このドアホッ! 文句があるんなら、ワイらが相手するど! 」
激しい口調で攻撃した。横では井仲も睨みを効かせている。女番長も、その迫力にかなわなかった。
「ウッ、クソッ・・・」
リーダーが低く、うめくようにつぶやいた。二郎の目を睨みつけ、両手をワナワナと振るわせ、悔しさに顔が歪んだ。そして『チエッ』と舌打ちすると
「おぼえとけよっ! 」
「お前なんか、絶対に許さへんで! 」
「仕返し、したるからなっ! 」
口々に捨てゼリフを残しながら、五人はきびすを返して走り去った。
 残された女生徒はボンヤリと立っていたが、もう涙は出ていなかった。
「あんな連中、恐いことあれへんのやで。もうお家(うち)へ帰ったらええよ」
不思議にも不田が女生徒にやさしく言った。小柄で、か細い女の子である。
「おおきに・・・。けど、明日(あした)から、また・・・」
いじめられる・・・と言いたかったのだろうが、言葉が出なかった。
 

  

つづく




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posted by はくすい at 15:57| Comment(0) | 虹のかなた
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