2018年09月27日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(67)

その一 異郷の空へ(67)
 

駅迄の短い道中、奈々子はとてもはしゃいでいた。ピョンピョンと飛んだり、両手を広げて踊るようにクルクル回ったりして、何度も笑顔を送った。『まるで、白雪姫みたいや』と思った。この笑顔の輝きを、自分だけのモノにして良いのだろうか。
 やがて駅に着いた。別れの時がやって来たのだ。改札口の所で
「山ノ上さん、今日はホントにありがとう。アタシ、とても楽しかったわ。気を付けて帰ってね。ホントにホントにありがとう。それじゃ、サヨナラ」
そう言うと、右手を差し出した。これ以上、拒否してはいけない、と思った。
『女の子に恥をかかせたら、アカンのよ』母の言葉が思い出された。
 思い切って右手を伸ばし、奈々子の手を握った。マシュマロのように柔らかく、温かい小さな手であった。
 奈々子は『キヤッ! 』と小さな声を挙げ、慌てて左手を添えた。又もや顔がカッと熱くなった。彼女の顔は、はにかんでいるように見えたが、瞳がうるんでいるようでもあった。彼女は手を離すと
「サヨナラ! 」
軽くおじぎをした。慌てて帽子を脱ぎ、おじぎを返したが、間に合わなかった。彼女はクルリと向き返ると走り出した。三十米ほど走った処で急に立ち止まり、二郎の方を向いた。大きく右手を振りながら
「サヨーナラーッ! 」
大きな声で叫んだ。その声が大きかったので、周りに居る大人たちがジロジロと見た。慌てて改札を通り、ホームへ出た。
揺れるシートに身を任せながら、今日の事を考えた。これで良かったのだろうか。今まで誰ともした事のない、遠い町での映画鑑賞。そして食事。それも、普通では考えられない、他校の女生徒と、である。
楽しかった。映画は勿論、音楽も実に素晴らしかった。だけどもう、これっ切りにしよう。これから先は、大きな目標が有るのだ。こんなに楽しい甘い味覚は、早く忘れなければならない。そうでないと、頑張る気力を失なってしまうかも知れない。そう思った。

  

つづく


これも彼岸花の一種かな?
IMG_0276[1].JPG
  
posted by はくすい at 14:36| Comment(0) | 虹のかなた
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