2018年09月13日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(63)

その一 異郷の空へ(63)
 

「アッ! 」
小さな声を挙げ、慌てて立ち上がった。そのとたん、横のヒジ掛けで腰をイヤというほど打ちけた。
「アッ! イタッ! 。コッ、コンニチッ・・・」
腰を手で押さえながら、慌てて挨拶したが、そんなに急には舌が回らなかったし、打った腰がひどく痛い。
「ごめんなさいね。でもアタシ、遅刻はしてへんのよ。約束の時間より、まだ十分も前やし・・・」
笑いたいのを必死で堪えながら、奈々子は両手を軽く広げ、首をかしげた。その僅かな、可憐な仕草に胸が『ドキン! 』と大きな音を立てた。
『まるで、映画の画面から抜け出て来たみたいや』と思った。なんと言う、可愛い姿なのだろうか。
 袖のない、白地に赤の格子柄のワンピース。白い襟と白いベルトがアクセントとなり、胸に可愛くフリルが付いている。
「ウフフ。こんにちは、山ノ上さん。今日は良く来てくれたわねえ。アタシ、とっても嬉しいわ・・・。ありがとう。さあ、行きましょ」
そう言いながら彼女は、手を取ろうとした。指が手に触れようとした瞬間、弾かれたように手を引っ込めた。
「ハッ、ハイ! イッ、行こう」
並んで歩き出した奈々子は、とても嬉しかったのである。たった一通の手紙だけで、素直に会いに来てくれるなんて、まるで夢のようだった。 
 二郎に会えるのは五分五分だろう、と思っていた。何時、映画の切符が送り返されてくるのか、それとも、そのまま無視されてしまうのではないか、と毎日が気が気でならなかったのである。それだけに、待合室で二郎を見つけた時の喜びは一入(ひとしお)だったのである。
「山ノ上さん。お昼ごはん、食べたん? 」
「うん。早い目に食べたよ」
「あ、そう。じゃあ、良いのね」
奈々子の声は弾んでいた。一緒に歩くのが楽しくてたまらなのだ。だが、目を覗き込むように見る奈々子の顔が眩しくて、直視できないでいた。
「ねえ、まだ時間があるから、寄っていきましょうよ」
駅前にはお店が並んでいる。その中からミルクホールを見つけたのだ。
 店に入って席に付くと、向かい合いとなった。席がそうなっているのだ。


  

つづく


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posted by はくすい at 11:50| Comment(0) | 虹のかなた
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