2018年08月23日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(61)

その一 異郷の空へ(61)
 

便箋の間に劇場の鑑賞券が入っていた。が、文面を見て驚いた。それは剣道が出来る事で舞い上がり、母から言われていた合宿費用の事をすっかりと忘れていたのだった。それを里子が見事に手を打ってくれていたのだ。
 これで疑問は氷解したけれど、里子に何と謝れば良いのだろう、と反省しきりであった。
 しかしながら、長岡奈々子からの誘いはどうしたら良いのだろう。そう思えば、映画など長い期間見ていない。もし、誘いに乗って和歌山の町へ行ったとしても、不案内である。往復の交通費はおろか、僅かの小遣銭も持っていない。どうしょう・・・。母の里子に相談するしかないのであった。
「お母はん。この間の合宿、ゴメンな。参加費用の事、すっかりと忘れてたんや。向こうの学校まで送って貰ったんやてな、さっきの手紙にそう書いてあったんや。おおきに・・・」
「えっ! 誰が教えたのよ。けど、良いのよ。もう済んだんやし、二郎ちゃんが楽しかったんなら、それでええやんか、そうでしょう?」
「うん、そうやねん。おおきにな・・・。それで、お母はん・・・。あの学校の女の子から、一緒に映画を観に行って欲しい、って誘われてるんや。お母はんからの手紙で、家(うち)の住所が分かったんやて。けど、どうしたらええのやろうか。ボクには分からへん・・・」
「ふうん、そう・・・。よその学校の女の子から、映画のお誘いを受けてるの? それは良かったやないの、ええお話やわ」
「うん、そうなんや。中に切符が入ってたんや」
「それやったら、行ったらええのんと違う? 女の子に恥をかかせるもんやないのよ。そんなことしたらアカンのよ」
「そやけど、ボクには行くお金があれへん」
「大丈夫よ。それくらい、お母さんが用意してあげるわよ」
「うん、そうか・・・。分かった。そうするわ、おおきに・・・」
これで話は決まった。だけど、もうひとつ心配事があった。それは、彼女の顔を見ると、何故か顔が真っ赤になることだ。勿論、心臓がドキドキと高鳴るのも、分かり切っている。
『ホンマに、大丈夫やろうか・・・』と心配であった。
 だが、里子は無性に嬉しかったのだ。この田舎の町へ来て、まだホンの期間しか経っていない。それなのに、こうして女生徒の方から映画のお誘いを受けるなんて、とても嬉しい話である。それも、初めて合宿に行った他校の女生徒に、である。でもいったい、どんな娘さんなのだろう。可愛い娘(こ)だったら良いのになあ・・・。いや、二郎を気に入ってくれるなんて、夢のような話であった。フッと胸に湧くものを感じて瞼が熱くなった。そして、その辺にいる誰でも良いから、自分の息子を自慢し、大っぴらに吹聴したい。そんな衝動にかられたのであった。すると、自然に顔がほころんできた。第四日曜日はすぐそこであった。


  

つづく



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posted by はくすい at 14:19| Comment(0) | 虹のかなた
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