2018年05月29日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㊵

その一 異郷の空へ㊵
 

 帰宅すると、先生からの話を母親に伝えた。そして早速用意に取り掛かった。稽古着・袴・防具・竹刀。それらは常に用意が出来ている。あとは着替えの肌着や洗面具等である。
「二郎ちゃん。合宿に行くのはええのやけど、お金が要るんやろ? 汽車賃も要るし、合宿の費用は、なんぼ納めたらええのん? 」
素朴な質問に、ハッと気付いた。そうなのだ。食費等、合宿費用が必要なのだ。それに付いて、安田先生は何も言及しなかった。いや、合宿に行ける喜びの余り、耳に入っていなかったのかも知れない。
 今の生活は、父からの仕送りと、母が街の映画館でキップ切りでの僅かな日当でやっているのだ。いくら剣道の練習が出来るのが嬉しいと言って、合宿の費用を捻出出来るとは思えなかった。その現実を見た時、頭のてっぺんから冷水を浴びせ掛けられたようで、気持ちが一度に沈んでしまった。
「そやったなあ。お母はん、ボク、合宿に行くのん、辞めとくわ・・・」
さも残念そうな言葉を聞いて、里子はキッと目を見開き、血相を変えた。そして強い口調で言った。
「ナニを言うてるのよ、二郎ちゃん! お母さんはね、『費用はいくら要るのか』って聞いたのよ。折角、先生が骨を折ってくれてはるのに、それを無駄にしたらアカンやないの! 良いわねッ、合宿に行っておいで! それから向こうへ行って、金額を聞いて、お店へ電話して頂戴。お母さんが届けてあげるわよ。分かったわね! ヘンな心配なんか、せんといてねっ! 」
突然のキツイ言葉に絶句した。滅多に声を荒げた事のない母であった。その彼女が、この様に強く言ってくれるのが嬉しかった。この町へ移って来て二ケ月と少し。まだ田舎の生活に慣れていないだろう我が子に、少しでも不自由な思いをさせまいとする、必死な母の大きな愛情であった。
「うん・・・。おおきに・・・」
急に顔を横向けた。ふいに目頭が熱くなって、涙が出そうになったのだ。


  

つづく



もくもくファームでバーベキューぶたとソーセージ作りと温泉温泉に入ってきました!
ソーセージは自宅で燻製に黄ハート
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posted by はくすい at 14:20| Comment(0) | 虹のかなた
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