2018年04月26日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㉝

その一 異郷の空へ㉝
 


夏の日は長い筈だが、時間はアッと言う間に過ぎ、夕方の五時になった。これで今日一日の仕事が終ったのだ。けれど一日・八時間の短い時間では、僅かばかりの荷物しか移動出来なかった。
 体は埃と汗との汚れでまっ黒になっていた。洗い場で全裸になり、頭上から水を浴びて体を洗った。用務員さんに見られても恥ずかしくはないのだ。もう蝉も泣き止んで静かになり、おだやかな夏の夕暮れとなった。
 「ただいま」
帰って来た顔を見るなり、すぐに里子が言った。
「お帰り。二郎ちゃん、お風呂が沸いてるよ。お入り」
母が気を利かせて風呂を沸かしてくれていた。喜んですぐに入った。
 湯船に浸りながら、両手を上げて大きく伸びをした。すると、あちこちの筋肉がキリキリと痛んだ。あの荷物運びが原因なのだ。普段使っていない筋肉を、重い荷物を運ぶ為に無理矢理に使ったからこうなったのだ。作業の時は気付かなかったが、腕や手には沢山のスリ傷やひっかき傷が出来ていて、血が滲んでいた。その傷に湯が侵んでヒリヒリと痛かった。
「しんどかったけど、楽しかったわ。昔の使えんモノを、ようけぇ残してあったで。片付けるのが大変や。あとどれ位時間が掛かるんか、全然分からへんわ・・・」
夕食の時、里子に話した。今日一日の出来事が余りにも鮮やかな印象だったので、少々興奮気味になっていた。それで、ちょっと饒舌になった。
 いつに変わらぬ立派な料理ではなかったが、モリモリと食べた。よほど空腹になっていたのであろう。
 里子はそんな我が子が愛おしくてたまらなかった。思わずギュッと抱きしめたくなったが、そうも出来ない。それが少し悔しかった。
 こんな大変な仕事は誰かに強制されたのではない。こんなに体に傷まで付けるような重労働も、剣道の練習をしたいと思う強い意志なのである。
 里子は嬉しかった。たった一人の息子を生み、そしてここまで育てて来た事に誇りを感じて胸が熱くなり、キュンと音を立てた。
 

  

つづく




ベトナムの卵麺でワンタン麺作ってみました。ちょっと盛り過ぎましたあせあせ(飛び散る汗)
IMG_4214[1].JPG


posted by はくすい at 16:03| Comment(0) | 虹のかなた
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