2018年04月24日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㉜

その一 異郷の空へ㉜
 
「オーイ! ひと休み、せんかのう」
午後の三時を過ぎた頃、小父さんが声を掛けた。だが、作業に熱中している耳には届かなかった。三度目の呼び声でやっと気付いて手を止めた。入口へ行くと、スイカを二切れ載せたお盆があった。
「冷たいスイカじゃ。一緒に食べようかいの」
「ハイ。ありがとうございます」
相変わらず埃まみれで、ドロドロである。
 涼しい処に二人は腰を下ろした。スイカまでご馳走してくれるとは、何と心の優しい小父さんなのだろう。
「きのうのい。校長が『お前、食べろ』ちゅうて、置いて帰ったんじゃ。そいでのい、井戸へ吊して、冷やしておいたんじゃ」
「いただきます」
感謝一杯でかぶりついたスイカは、冷たくて甘かった。体中の汗がスーッと引くような気がした。
「おまはんのう、ここを片付けて何かするんかいな? 長いこと放ったらかしにしてたから、ひどう汚れとるじゃろう。ワイもこの学校にゃ古い方じゃが、ここを使うとる処は、あんまり見たことは無いでのう」
果肉をほおばりながら、のんびりとした口調で質問した。
「ハイ。ここを整理して道場にしたいんです。それで、二学期から剣道部を創りたいんです」
胸を張って答えた。何の臆する処があろうか。
「ホウ、剣道かいのう。それはええのう。儂も昔は学校でやったもんじゃ。兵隊に行ったら、今度は銃剣術をやった。若い間は体を動かさにゃアカン。『鉄は赤い内に打て』と言うからのう」
「そうなんですってね、安田先生からお聞きました。ボクは六月に、大阪から転校して来たんです。大阪では剣道部に入っていました。その学校は、強いので有名なんです。おととしの夏には大阪の代表で、全国大会に出たんです。今年も出場出来るようになったと言うて、友達から手紙が来たんです。ボクはそんな手紙を読んだら無茶苦茶に悔しいんです。ここを道場にして、剣道部を創って、今まで練習出来へんかった分、取り戻したいんです」
本当とはちょっと違うけれど、小父さんが納得出来るように、自分の事も加えて力説したのだ。
「ほうかい。おまはんも苦労しとるんじゃのう・・・。大変やと思うけど、まぁ頑張ってやりなはれや。気ィ付けてな、そいじゃあな」
そう言って小父さんは立ち上がった。無駄な時間を取ってはいけないと、心配りをしたのであろう。
「おおきに。ありがとうございました」
瓢々とした後姿に頭を下げた。田舎の人の親切が身に染みていた。
 


  

つづく




5/3中之島祭りのベリーダンスで着る衣装です
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posted by はくすい at 15:03| Comment(0) | 虹のかなた
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