2018年04月17日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㉚

その一 異郷の空へ㉚
 

『旨く片付ければ、広い道場になるも知れない』そう直感した。
 だが、この荷物類はどうすれば良いのだろう。単に壁側に移動しただけでは面積が取れず、具合が悪そうだ。
 暫く考えた後、外へ出た。そしてもう一度、この建物をようく眺めて見た。高床式の床下には相当の空間があるようだ。
『そうや! あの床の下に荷物を置けるかも知れへんぞ! 』そう思った。柱の間から身体を入れてみると、成る程、高さは余り無いものの、広々とした空間があるのだった。
『よしっ! ここへ荷物を移動しよう!  』と、すぐに取り掛かった。 
 作業の初めは荷物の移動からだった。最初見た時には閑散として見えたのだが、いざ手を付けてみると、思ったよりも雑物が多いのに気付いた。
 今は盛夏である。立っているだけでも汗が流れるのだ。その上に力を使って動くものだから、体中から汗の粒が猛烈に吹き出すのだ。
 多くの葛籠(つづら)や行李(こうり)等、手で持てる物は埃を手拭いで払い、床下に運んだ。だが、床下では中腰になる為、すぐに腰が痛くなった。何度も腰を伸ばし、ゴンゴンと拳で叩いた。
 長持ちの大きな箱が一つあった。取っ手を持ち上げようとしたが、重くて動かなかった。蓋を開けてみると、古い本や書類などがギッシリと入っていた。道理で重い筈だ。持てるだけ抱え込み、何度も下へ運んだ。空になった箱は軽くなったとは言え、相当重く容易には移動出来なかった。それに、階段から下へ運ぶのには、一人の手には大いに余ったのだ。誰かの手が欲しかったけれど、他には誰も居ないのである。甘えている訳にはいかないのだ。階段を一段づつ、精一杯の力を振り絞りながら、ゆっくりと箱を降ろした。そして、大汗の末、やっと床下へ運ぶことが出来た。
「オーイ。なにをやってるんかのい」
ゴマ塩頭の用務員の小父さんがやって来て、声を掛けた。校内を見回り中、誰も居ない筈なのに、作業中の姿を見つけたので、見に来たのだった。
「ハイ。校長先生から許可を貰って、ここを片付けているんです」
奥の方に居たけれど、入口まで出てきて答えた。
「ああ、そうかのい。しかし、大変な仕事やなァ。けど、おまはん、一人で大丈夫なんかのう・・・」
小父さんは、顔をマジマジと見た。額の汗に埃が混じり、それが流れて顔中に黒い筋が何本も付いている。
「ハイ、大丈夫です。ボク一人で充分です」
「そうか、大丈夫か。それやったらええな・・・」
強く力のこもった言葉に、何の疑いも無く小父さんは深く頷いた。彼の強い意志を汲み取ったのだろうか。
「ナンかあったら言うて来たらええでな。儂は部屋に居るからのう」
「ハイ。ありがとうございます」
首に巻いたタオルで汗を拭いながら、小父さんは去って行った。蝉の鳴き声が時雨れとなって、一段とやかましい。



  

つづく



今年お初の筍ご飯黄ハート
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posted by はくすい at 15:47| Comment(0) | 虹のかなた
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