2018年02月20日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へP

その一 異郷の空へP
 
あくる日。二人は恵介の店から歩いて約三分程の所にある、一軒の家へ行った。父が小振りの家を借りておいてくれたのである。祖父の家に居候する気遣いを、極力させまいとする愛情であった。だが、この家に、父が二人を迎えに来るのは、果たして、何時の事であろうか。
 その日から、新しい家で母と二人きりでの生活が始まった。家具類はほとんど無く、卓袱台(ちゃぶだい)や茶碗、鍋等を祖父の家から借りて来た。大阪からの荷物が届くのは、しばらく先になりそうだ。

 転校する県立海山高等学校は、この地方では古く、生徒数一千名を擁し、大学への進学率も高い名門校なのである。都会の学校とは違って、なにもかもが広々としている。校舎間の通路や中庭、運動場など、大阪の泉川高校より、はるかに広大であった。
 初登校日。担任の安田先生と教室に入った。それまでワイワイと騒いでいた生徒たちは、彼の姿を見ると急に静かになり、急いで席に着いた。
 少し緊張しながらも、教壇の横に立ち、転校生としての紹介を受けた。
「大阪の泉川高校から来た、山ノ上二郎君です。この和歌山へ来たのは初めてらしいので、何かと分からん事が多いと思う。そやからみんな、仲良くしてやって欲しい」
『大阪』という地名を聞いた生徒たちは、教師が話し終らない内に半数以上がガヤガヤと喋り出した。そんな風景が気に入らなかった。この騒ぎで、一度に緊張の糸がプツンと切れた。
『なんや、アホらしい。つまらん連中や』
少し腹立たしくなった。転校生が一人やって来たぐらいで、教室がこんなに騒がしくなるなんて、なんとも情けない連中なのだ。
「山ノ上二郎です。この地方は初めてですので、宜しくお願いします」
自己紹介をしながら、腹の中で苦々しく思った。

  

つづく


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posted by はくすい at 16:01| Comment(0) | 虹のかなた
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