2021年04月08日

M35宮坂正春氏遺作 青春小説『虹のかなたへ』連載第2章 その二 悲しみと苦しみ(101)

その二 悲しみと苦しみ(101)
 
真っ先に、個人戦に出場する選手に掛って行った。同感の者が多いと見えて、上に立つ選手に対戦希望者の列が並んだ。半数以上が帰ったとは言え、まだ百人以上が残っている。先生方へ掛る学生は少なく、殆どが県代表の選手に向かって行くのだ。だから、受ける方はたまったものではない。なるほど、これがこの連中に対する『強化練習』なのだ。
 県代表の選手たちは、次から次へと掛ってくる数知れない相手と対戦しなければならないのだ。向かって行く方は相手が県代表と分かっているから、全力を出すのだ。だから全員に全力を尽くさなければならない。もしも打ち負けるようならば、県代表としての実力が疑われても仕方あるまい。
 県代表の中にはすぐに息が上がり、へたばってしまう者が続出した。
『これが県体表なのか。こんな程度の力しかないのか』九人のうち、五人と対戦してみて、大して変らない技量を感じて安心した。これなれば、勝てるチャンスがあるだろう。絶対的な差などないのだ、と実感した。
 三日間の暑中稽古・強化練習の中で、県代表の選手全員と対戦してみた。中には二度三度と対戦した者も居た。
「みんな、どうやった? 県の代表や言うたかて、あんまり強うないみたいやな。試合の駆け引きが旨いよってに、勝てただけ、みたいな感じがするけど、そう思えへんか? 」
帰る道中、部員たちに尋ねた。
「オレもそう思うで。オレらは試合が少ないよってに、その駆け引きが分からへんのや。それが分かったら、結構イケルのんと違うやろか」
不田も、その辺のことを感じ取ったようだ。
「やっぱり、高校生同士なんやから、大して実力は違わへんのやなあ・・・。なんや、オレにも勇気が湧いて来たで」
苅川の顔が明るくなった。すると、恵が悪戯っぽく笑って、苅川の背中をポンポンと叩いた。
「その意気よ、やる気でやったらええんよ。苅川さん、頑張ってよ」
「イタイッ! また池上さんか! アンタはオレの天敵や! オレの半径二メートル以内に近寄らんといてくれ。そやないと、体がボロボロになってしまうやないか。オレを殺す気ィか! 」
「またぁ・・・、そんな大袈裟なこと言うて。苅川さん、アタシたちは仲間なんよ、ねえ、みんな! そうよら? 」
回りの者に向かって、大きく目を開けてぐるりと視線を送った。恵のそのしぐさのおかしさに、みんなはワーッと笑った。夏の日射しは強くギラギラと輝いていたが、若いみんなは元気であった。

  

つづく


今日は入学式でした^^128名ピカピカの1年生です。
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posted by はくすい at 17:10| Comment(0) | 虹のかなた