2021年03月02日

M35宮坂正春氏遺作 青春小説『虹のかなたへ』連載第2章 その二 悲しみと苦しみ(98)

その二 悲しみと苦しみ(98)
 
それから後、山崎田先生は毎週火曜日と金曜日の二日間、稽古に来るようになった。大変有り難い話なのだが、初稽古の印象が余りにも強烈であった為に、先生を恐れたのだ。それで、先生との稽古をためらいがちであった。失礼極まりないことである。
「オーイ。またあのオジン先生、来てるで・・・。オレらには剣持先生一人だけでもたまらんのに、その上、あの先生にやられたら、もうあかんで・・・。なんとかならへんのやろか」
苅川や、一年生たちが良くグチをこぼした。
「アホなこと言うたらアカン。先生かてお忙しいのに、汽車賃まで使うて、わざわざ来てくれはるんやで。それを感謝せなアカンやないか。そんなこと言うたら、バチが当たるで」
と苅川をたしなめるのであった。
「そんなん言うたかて、シンドイのはシンドイや。ホンマやないか」
苅川も案外強情だ。引き下がろうとしない。
「アホッ! ナニを言うてんのや! これ位の練習でへこたれたらアカンやないか。お前ら、強うなりたかったら、文句をぬかさんと稽古せんかい! さっさとやれ! ホラッ、サボるな! 」
不田が苅川を叱った。苅川はふくれっ面をしたが、正論には勝てなかった。
 当の山崎田先生は、遙かな高みに立ってみんなを見ていた。初稽古の時、各人の技量・体力などを知り、記憶に留めた。そして稽古方法を見事に分析したのだ。稽古をする時、生徒の持てる実力より、ちょっと上に立って相手を引き上げるのだ。そこが、この先生が非凡と言われるゆえんである。だからこそ、部員たちは先生の竹刀捌きの魔法にかかったようになり、夢中になって稽古をするのだった。
 吐く言葉もその技術の一つである。部員たちは未熟だから、構えが悪いし攻めも弱い。その上、動作がまる見えであるから、すかさず言葉に出してやるである。メンを打って来るのが分かれば
「オウ、メンに来るのか」
と言ってやるのだ。すると相手はハッと気付き、急いで戦法を変えようとする。それを何度も繰り返すことで、自分の攻め方を研究し工夫をするのだ。 剣道には、瞬間的な決断と、それを実行に移す瞬発力、俊敏な動きが要求されるのである。どんな技も、中途半端では一本には成らない。部員たちは気が付いていないのだが、この山崎田先生と稽古するようになってから、剣持先生との相乗効果により、急激に技量が上達して行ったのだ。

 
  

つづく

今日は第73回卒業式です
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posted by はくすい at 16:10| Comment(0) | 虹のかなた