2020年05月13日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(69)M35宮坂正

その二 悲しみと苦しみ(69)
 
長岡奈々子は、午前三時三十分に目覚めた。電灯を点け、昨夜に用意しておいた服に着替えた。顔を洗い、手早く化粧をした。四時二十六分発の始発列車に乗る予定なので、急がねばならなかった。持ち物を確認し、そっと家を出た。まだ夜は明けておらず、はるか東の空が白々とし始めていた。五月中旬とは言え、早朝はブルッとするほど寒かった。
 駅のホームでしばらく待っていると、ヘッドライトを煌々と光らせて一番列車がやって来た。車内はガランととしており、乗客は僅かだ。前の方に、行商の小母さんたちの集団が見えた。
 終着の東和歌山駅で列車を降りた。阪和線の電車に乗り換えるのだ。乗り継ぎの時間待ちの間に駅弁を買い求め、ホームのベンチで食べた。そして、長い旅の末、やっと天王寺駅に着いた。
 奈々子は早速、行動を開始した。先ず、駅の構内にある公衆電話のコーナーへ行った。そこには赤い電話器が並べられてあり、電話番号帖も用意されていた。その電話番号帖を広げて、『浜大阪病院』を捜し出した。
 次は駅の外へ出て交番所を捜した。当直の警察官に、浜大阪病院までの道順を聞き出そうと言う作戦である。
 一人で大阪へ来たのは初めてだから、まったくの不案内で、方向が東も西も分からないのだ。交番所の老警官は、地図を広げ、ノートのページを切り取って、その道順を丁寧に書いてくれたのだった。奈々子は度胸を決めていた。目と口と耳があれば、どんなに複雑な所へも行けるはずなのだ・・・と。 老警官の地図のお陰で、ほとんど迷いもせずに目的の浜大阪病院へ辿り着けた。そこは白くて大きな病院であった。
 近くに花屋さんがあったので、そこへ寄った。見舞い客が多く利用するだろうその花屋さんは、予算通りの花束を見栄え良く作ってくれた。
 病院に入ると受付へ行き、入院患者の名前を告げた。『山ノ上』という変った名前は一人しか居なかったので、すぐに病室が判明した。
 階段を上がり、廊下を通って病室の前に立った。入り口の名札に『山ノ上里子』があるのを確認し、ドアのノブに手を掛けた。
 奈々子は、胸が激しく波打つのを感じた。このまま、二郎の母親に会っても良いのだろうか。そして、何と言えば良いのか。今日、この見舞いを、どう説明すれば良いのだろう。彼への想いを、素直に言葉に出しても良いのだろうか。それとも・・・。頭の中で、色々な思いが交錯し、打ち合って混乱した。だが、すでに賽は投げられているのだ。それらを思い切るように、力を込めてノブを回し、静かにドアを開けた。
 そこは六人部屋であった。向かって右の端、つまり、窓に面した外側が、里子のベッドであろうと思われた。

  

つづく


戻したゼンマイでビビンバと筍との煮浸し❣
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posted by はくすい at 14:52| Comment(0) | 虹のかなた