2020年03月17日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(60)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(60)
 
 やがて、松の木の根元へ腰を下ろした。突き抜けるような蒼天だった。 小一時間だったろうか、他愛ない会話で笑い合っていたが、そのうち、奈々子は二郎の方へ向き直り、真顔になって彼の目をジッと見つめた。そして、静かに口を開いた。
「ねえ、二郎さん。アタシのこと、どう思ってくれてるの? ねえ、教えて・・・。アタシは二郎さん、大好きなのよ。二郎さんさえ良かったら、明日にでも、お嫁さんなるワ・・・。そやから、チャンと答えてよ」
これは告白であった。胸の前に両手を合わせ、懇願する目がうるんでいる。
 胸を突き刺されたような衝撃を受けた。突然、こんな告白を受けて、どう答えれば良いのだろう。だけど、答えない訳にはいかない。ここで、嘘を言ってはいけない。今こそ、本当の気持ちを伝えなければならないのだ。
 決心し、スッと立ち上がった。そして言った。
「長岡さん、ボクは好きや、大好きや! とても大事にしたい人やと思うてる。けど、『好き』と言うのは『LIK(ライク)E』であって『LOVE(ラブ)』とは違うんや。剣道を修行しているみんなと、一緒なんや。ボクらは学生やから、『結婚』なんかの話はまだ早いと思うし、それを言い出したら、お互いの気持ちに傷が付くのと違うやろか・・・。ボクは長岡さんと、これからもずーっと仲の良い友達でありたい、と思うてるんや」
「えっ! なんで? そんな・・・」
この言葉はショックだった。これほど慕っているのに、『友達でありたい』という言葉が、彼女を決定的に打ちのめしたのだ。先程まで晴れやかだった顔が、一瞬に悲しげに曇った。首をうなだれ、しょんぼりと肩を落とした。白いうなじがいじらしい。
『アタシが、こんなにも二郎さんを好きになっているのに、なんで、そんな悲しいことを言うのよ。どうしてもっと、やさしい言葉を掛けてくれないのよ・・・』悲しかった。声をあげて泣きたい気持ちで、胸が一杯になった。
「なあ。これからも、仲の良い友達でいような」
奈々子の両肩に手をかけて、軽くゆすった。それが彼女にとって、告白を拒絶する大きな追い打ちとなり、気持ちがカーッと興奮状態になった。
 急に奈々子は二郎の右手を両手で掴んだ。そして目を閉じ、力を込めて手の平を、自分の右の胸に押し当てた。
「なっ、なにをするんや! 」
突然の行動に驚き、叫んだ。手を引こうとしたが、奈々子が離さず乳房に押し続けた。柔らかな弾力のあるかたまりが、ブラウスの薄い生地を通して手の内に感じられた。奈々子は
「二郎さん・・・」
目を閉じ、押し殺すような声でつぶやいた。
「長岡さん、止めろよ! 」
無理矢理に手を離し、痛くなった手首を見た。すると今度は奈々子が抱きついた。松の木を背にしていたので逃げ場がなかった。彼女はありったけの力を振り絞り、首にしがみついた。そして、何もかもを振り切るように目を閉じ、彼の唇に自分の唇を押し付けた。

  

つづく


S35化学機械の北秀明氏から頂いた写真です
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posted by はくすい at 12:30| Comment(0) | 虹のかなた

気まま旅『 その壱九 愛媛県 その二 』M38泉谷忠成

『 その壱九 愛媛県 その二
 』



愛媛県で外せないのは、先ず道後温泉・愛媛みかん、といった所でしょうか!
道後温泉は有馬・白浜と並ぶ日本三古湯のひとつ、古き良き時代の風情を残しています。
開湯は古く、聖徳太子も訪れたという由緒ある古湯、夏目漱石『坊っちゃん』で描かれた道後温泉本館のたたずまいはそのままで現存、入浴を楽しまれたら、ゆっくりと管内見学もお忘れなく。一度は訪れたいものです。

愛媛には友人が多く、先ず語られるのは愛媛みかん!友人はみかんの季節に、とよく言われます。
山は一面のみかん畑、素晴らしい景観が楽しめるそうです。
個人的には何度か訪問しているにもかかわらず、みかんの最盛期には訪問していません。
シーズンには、と思っているのですが、今となっては難しそうです。 
みかんそのものでは和歌山が生産量日本一になっているようですが、柑橘類全体としては愛媛県が日本最大量の生産を誇っているようです!



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posted by はくすい at 12:10| Comment(0) | 旅だより

2020年03月05日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(59)M35宮坂正春

その二 悲しみと苦しみ(59)
 
奈々子は先に家を出た。そしてバス停で待った。少し遅れて二郎が来た。二人は知らぬ顔をしでいた。やがてバスに乗り、隣町へ行った。運良く誰の目にも留まっていない。
 食堂は休日のお昼時だというのに、ガランと空いていた。食事の客は二人だけてあった。
「長岡さんは何が好きかな? 色々あるよ」
メニューを見せながら言った。
アタシはなんでも良いのよ。二郎さんに任せるわ」
「それじゃあ、この磯定食にしよう」
注文して暫くの後、磯定食が運ばれて来た。
「おいしいわねえ・・・。アタシね、お造りの中でこのハマチが一番好きなのよ。二郎さんはどう? 」
目を細め、さも美味しそうに食べる奈々子の顔は、幸福そのものであった。
「二郎さんと、食事をするのはこれで二回目やねえ。アタシ、とっても嬉しいのよ・・・。こういう海岸では、やっばりお魚がいいわね」
ニコニコと微笑むその顔が、この上なく可愛いと思うのであった。どうしてこの娘(こ)は、こんなにも魅力的なのだろうか。 
 食事を終えると、ゆっくりとお茶を飲んだ。窓から入ってくる浜風が、潮の香りを乗せていて肌にやさしかった。
「ちょっと、歩こうか。気分がええで」
「そうね・・・。天気が良いし、歩きましょ」
食堂を出て、海岸の方へ歩いた。
 五月の休日で、それも上天気な昼間だというのに、この浜辺には人影が見当らずに静かだった。松尾芭蕉が『のたり、のたり』と表現したような、見事に凪いだ海面であった。
 波打ち際をゆっくりと歩いた。奈々子が手を取ろうとしたので、さり気なく手を動かして僅かな間隔を取った。すると彼女は、左腕を両手で掴み、胸にしっかりと抱きしめた。そして寄り添うようにして歩いた。誰が見ても、恋人同士そのものであった。
「さっき、二郎さんの写真を見せて貰ったでしょう。あの中にねえ・・・、アタシの好きな写真が一枚あったのよ・・・。あの写真、アタシは欲しいんやけど、どうかしら」
「ボクの写真? どんなんやろ」
「ホラ、大阪城の前で撮ったのがあったでしょう、あれよ。あの写真がどうしても欲しいのよ」
それは去年の春だった。泉川高校への入学が決まった日に、友人二人と一緒に大阪城へ行ったのだ。その時一人で撮って貰ったものであった。
「ああ、あれか。ええよ、長岡さんが欲しいのなら、あげてもかめへんよ」
「ホント! 嬉しいわ・・・。夢みたいやわ」
奈々子は顔を輝かせ、嬉々として喜んだ。そして体を大きく踊らせると、その弾みで掴んでいる両手に力が入った。
「イタッ・・・。長岡さん、痛いよ! 」
「アッ、ごめんなさい! 」
腕を引くと、彼女は手を離した。だが今度は手を握った。

  

つづく

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posted by はくすい at 12:45| Comment(0) | 虹のかなた