2019年11月14日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(38)

その二 悲しみと苦しみ(38)
 

走りながら地図を見ると、ランニングのコースが克明に書かれてある。校門を抜けて、海の方へ矢印が付いている。浜辺を長く通って、今度は山側へ入って行くようだ。古い街道を峠近くまで登り、次は反対側の小径を下るようになっている。最後は川の堤の上だ。剣持先生は赴任早々、ランニングのコースまで研究していたのだ。なんという、用意周到であることか。
「オイ、えらいことになったなぁ。オレは走るのが苦手なんや」
井仲が口を開いた。不足を言っているのではないが、どう聞いても不足にしか聞こえない。
「ナニ言ってるのよ。これも練習のうちよ。文句を言わないで走りましょ」
息を弾ませながら真実子が言った。
「アタシも走るのが苦手なんよ。しんどいわ。ちょっとぐらい休んでも、かめへんやろ・・・」
苦しそうな顔で恵が言った。額に汗が溢れている。
「休んだらアカン。ゆっくりでもええから、息を調えて走るんや。初めてやから、余計にシンドイんやで。池上さん、ゆっくりでええからな」
恵は頷いた。外(ほか)の連中の顔も随分と苦しそうだ。
 海岸の砂浜は不安定で走りにくい。足腰に異常な力が加わるので、グラグラとなる。みんなは砂に足を取られ、何度も転んだ。靴の中に砂が入り、素足の裏が痛くてたまらない。何度も靴を脱いで、中の砂を出した。峠への登りになると、余計に息が苦しくなった。
「なんで、走らなあかんのや。これが剣道の練習になるんかいな」
不田が不平を口にした。
「アタシもそう思うわ。シンドイばっかりやんか! 」
恵が文句を言った。走るのが気に食わないのだ。
「なんでも走ることから始まるんや。ボクらが走らなんだだけなんや。ゼッタイにええ練習になるんやで。そやから辛抱して走ろうや」
「そうよ、足腰を鍛えるのに良いのよ。アタシも尾道では良く走ったのよ」
真実子が口を添えた。そうなると誰も不平を言えなくなった。峠からの下り道になると、自然にスピードが上がり、膝がガクガクとなった。
「ヒエーッ! こりゃあたまらん! 」
苅川が悲鳴を挙げた。そして斜面に滑って尻餅をついた。
「もっとゆっくりでええねん。ゆっくりや! 」
大声で怒鳴った。全員で小刻みに歩調を合わせて、ゆっくりと坂を下った。やがて平地となり、川の堤防に差し掛かった。後方から野球部の連中が走って来た。その足並みは余程早いのである。そして、見事に追越されてしまった。追い越しざまに二郎たちを見て、ニヤニヤと侮蔑(ぶべつ)するように笑った。
「あいつら、いやに早いな。なんであんなに早いんや。オレらは亀なんか」
苅川が腹立ち紛れのように、ボソッと言った。
「あの人たちは毎日走ってるのよ。アタシたちは今日が初めてなんやもの、仕方がないわよ」
真実子がキッチリと釘を刺した。

  

つづく

秋の味覚『銀杏』大好物です❣
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気まま旅『 その弐壱 佐賀県 その一 』M38泉谷忠成

『 その弐壱 佐賀県 その一 』 



『大隈重信』
佐賀県には早稲田大学創設者の大隈重信候の記念館があるのをご存知でしょうか!生家もあり尊敬も含めて尋ねてみました。
大隈重信は伊藤博文らと官営の模範製糸場、富岡製糸場の設立をも決めています。
大隈重信の下には伊藤博文や井上馨といった若手官僚が集まり、明治31年初の内閣総理大臣を拝命し板垣退助らとともに日本初の政党内閣を組閣しました。

明治41年米大リーグ選抜チーム対早稲田大学野球部の国際親善試合における大隈重信の始球式は、日本野球史上記録に残っている最古の始球式とされています。大隈の投球はストライクゾーンから大きく外れてしまったが、早稲田大学の創設者であり総長、かっては内閣総理大臣を務めた大政治家である大隈の投球をボール球にしては失礼になってしまうと考え、早稲田の1番打者はわざと空振りをしてストライクにしました。これ以降、

一番打者は投手役に敬意を表すために、始球式の投球をボール球でも絶好球でも空振りをすることが慣例となったそうです。


大隈重信候生家
大隈重信候生家.jpg


posted by はくすい at 14:39| Comment(0) | 旅だより

2019年11月12日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載第2章始まる!その二 悲しみと苦しみ(37)

その二 悲しみと苦しみ(37)
 
四月の第二月曜日。新学年第一学期の始業式である。校長先生の訓辞のあと、転入赴任された数名の教師の紹介があった。その中の一人の教師が、道場の入口で練習を見ていたあの男だと分かった。ずっと南の方の学校から転任して来た、『剣持(けんもち)』という名前の、数学の教師であった。
 新しいクラスでは、自己紹介から始まった。生徒たちは恥ずかしいのか名前を小声で告げた。後方の席にいるので殆ど聞き取れなかった。名前が分からないと何事も始まらない。自分の名前を大きな声で言ったあと、
「ボクは、剣道部員です。海山道場で毎日、練習をしています。興味のある方は、どうぞ道場へ来てください。入部も歓迎します」
と付け加えた。これで全員は、山ノ上二郎の名前を覚えたであろう。
 
 新学期の開始と共に、部活も開始した。床を雑巾掛けしているとき、顧問の安田先生が来た。後ろには始業式で紹介された剣持先生を伴っていた。
「剣持先生は数学の担当なんやが、学生時代から剣道の稽古をされており、現在五段である。その上『錬士』の称号もお持ちなのだ。お前たちは知らんと思うが、教職員の選手として活躍されているんや。縁があって今回、ウチへ転任となられたんや。先生はお前たちを鍛えたい、と言うてはるので、儂に代って顧問をお願いしたと言う訳や。良いか! この先生に付いて、強うなって欲しい。分かったな! 」
部員たちは緊張をして、体を固くしながら
「ハイッ! 宜しくお願いしますっ! 」
一斉に頭を下げた。以前、安田先生が『期待しておけ』と言ったのは、この事だったのか、と深く感謝をした。剣持先生が口を開いた。
「剣持です。宜しくたのんます。この前から君たちの練習を見させてもらったけど、俺から言うたら、まだ初心者に毛が生えたみたいなもんや。この中に初段が二人居るらしいけど、全然なっとらん。もっと強うなるように指導したいと思うとるから、しっかりと付いて来て欲しい。今までは指導者が居てなかったから、仕方ないとは思うけど、これからは違うぞ。お互いに頑張ってやろうな! 」
力強く、心温かい言葉であった。
 これからは、まともな指導を受けられるのだ。今迄のような井の中の蛙ではなく、レッキとした錬士五段の先生の指導が受けられるのだ。ワクワクとするのを感じた。この先生に付いて行けば、いつかは出島商業に勝てるかも知れない。そう思った。みんなも同じ思いであろう。
「よし。それじゃあ、今から始めよう。みんな立て! 」
命令以下、すぐに立ち上がった。剣持先生は、片山美紀にガリ版で刷った用紙を渡し、それを各自に配らせた。
「先ず、ランニングから始めるぞ。コースはその地図の通りや。三十分ぐらいで走って来い。それ、行け! 」
用意する暇もあったものではない、慌てて靴を履いて外へ出た。
「みんな、行こうぜ! 」
一斉に掛け出した。

  

つづく


鉄道研究部
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写真部
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posted by はくすい at 13:04| Comment(0) | 虹のかなた