2019年01月10日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(90)

その一 異郷の空へ(90)
 
帰りでも苅川は上機嫌だった。それ程、練習を楽しんだのだろうか。
「なあ山ノ上君。あの道場を作った時、だーれも知なんだから、最初見た時はびっくりしたでえ。あんな古い建物(もん)が立派な道場になるやなんて、オレには想像もつかへんかったわ。ホンマにようやったでえ」
苅川は二郎を褒めた。それは本心からであろう。
「剣道部がないのは知ってたんや。けど、大学へ行くんやったらこの学校がええと、先生が言うたから、試験を受けたんや。もう剣道は出来へんと思うた。大学へ行ったら考えようと思うてたんや。今日は稽古出来たから、ホンマに嬉しいわ。これからも宜しくお願いしますわ、な」
苅川はニコニコとして、頭をさげた。
「いいわねえ、苅川さん。アタシたち剣道部員は、兄弟みたいなものよ。みんな仲良うして、お互いに頑張りましょうね」
「そうやで、みんな一緒やで。その中でお互いに腕を磨いたらええねんや。今度の出島商業には、負けんようにやろうで」
とても嬉しくなった。何もない、五里霧中から出発した剣道部であるが、なにか少し、先の方に光が見えてきたような気がしたのである。
「苅川のこと、どう思う? 」
バスの中で質問をした。今日の事が、不思議なものに感じたからであった。
「そうねえ。アタシは良かったと思うわよ。苅川さんには何かこう、他人(ひと)を引き上げる力があるみたいね。そんな人は貴重やし、必要やと思うのよ。けど、甘やかしたらアカンわねえ」
「ボクもそう思うよ。ちゃんとしたチームを作りたいな。そしたら、試合で勝てると思うよ」
「ええ、そうねえ」
バスは停留所に着いた。

  

つづく


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2019年01月08日

Have a great year! M38泉谷忠成



明けましておめでとうございます!
NHK朝ドラで「べっぴんさん」が放映されていましたが、舞台は子供服専門店の「キアリス」即ち「ファミリア」です。素晴らしいショップです。代官山店・三宮店など訪問、学ばせて頂きました。
そこでは四葉のクローバーが登場。四葉の意味を「勇気・愛情・信頼・希望」とあります。勇気で挑戦、希望を持ち続けられる人生、私の大好きな言葉です。
六人の孫たちに常に言い続けています。




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M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(89)

その一 異郷の空へ(89)
 

 「山ノ上君、悪いっ! オレ、今日は掃除当番なんやねん」
そう言うと苅川は、掃除道具を取りに行った。
 いつも通りに海山道場へ行き、部員たちと床を磨いた。しばらくして苅川が道場へやって来た。入口でペコリと頭を下げ
「お願いします! 」
と大きな声を掛けた。それを見て
『おっ! 礼儀が良いぞ。みんなにも見習わせたらええのや』と思った。そして横にいる不田の腕をつついて、苅川に注目させた。目配せをすると、不田はすぐに意志を読み取った。そして
「あ、そうか。そうやな・・・。この次から、オレもやるで」
と言った。この不田と言う男、不思議にも鋭いカンが働くのだ。
 苅川の入部紹介を形通りに行った。
「防具はここへ置いてね。道衣はここへ吊るすのよ」
「そうよ。手拭いやタオルはここへ干してね。清潔がイチバンよ」
恵とマネージャーの美紀が、細々(こまごま)と苅川の世話を焼いている。
「十一月二十六日 苅川純夫入部。一年生。一級」
美紀は日誌に書き込んだ。これで初段が二人、一級が三人となり、団体戦のチームが組める内容になった。昨日の試合にこの苅川が加わっていたなら、また違った展開になったかも知れないのだが。
 苅川の腕前は仲々のものだった。対戦したので、素直にそう感じたのである。体が柔らかいのか、足が良く動く。それに手首の動きが滑らかで、打込みの切れが良いのだ。今日は初日であったが、まるで水を得た魚のように生々としていた。来月に予定の練習試合に、良い材料が増えたのだ。
「あーあ、気持ちがええなあ。やっぱり、オレには剣道が一番や。稽古がすんだあとの、この気分が好きなんや」
上級生の防具を片付けながら、苅川がさも楽しそうに言った。キチンと正座し、防具を扱う手がテキパキとしている。顔は汗まみれであるが、相好はくずれていた。本当に楽しんでいる様子だ。
『本当に剣道が好きなんやなあ。自分と同じ位か、それ以上かも知れない。ボクも真剣に頑張ろう。絶対に負けるもんか』好意的な対抗心を持った。
「剣道は、相手に勝つだけが目的やないんよら。相手に対して、堂々と向かい合うんや。そんで、自分の力一杯に打ち込むんや。それが相手を尊重することになるんやで。相手を尊重するから自分も尊重されるんや。それが本当の剣道やと思うんよら。オレはいつもそう思うてるんや」
苅川は言った。その言葉を聞いて少なからず驚いた。正にその通りなのだ。
「そうや、その通りや。苅川、お前はええことを言うなあ。勉強をさせて貰ったよ。剣道は奥が深いなぁ」
二年生の石坂が感心しながら言った。この苅川純夫という男の言葉や動作に好感を持った。そして『仲々良い奴ではないか』と思ったのだ。
 あの日。草山真実子が転校してきた時に、なぜ、ひやかしたのだろうか。本人に聞くのが良いだろうが、それは酷である。あの時、苅川は一時的に魔が差したのではないか。そうだ、魔が差したのだ。そう思っておこう。

  

つづく



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