2018年11月29日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(82)

その一 異郷の空へ(82)
 

試合が始まると、真実子の試合が注目の的となった。場内の視線が彼女に集中した。だが、試合の結果は、一回戦で相手の五人に対して勝者数はゼロという、惨敗であった。
 海山チームの力は全く通じなかった。およそ初陣には相応(ふさわ)しくない、みじめな負け方であった。ただ、海山チームが得た唯一の一本。真実子が放った、鮮やかな抜き胴だけが救いだろうか。技が決まった時の喚声は、館内をどよめかせたのだった。
 最初の勢いはどこへやら、選手たちは意気消沈してしまった。そして衣服を着替え、帰る支度を始めた。
「アカンなあ。勝たれへんなあ。やっぱり、実力が足らんのやろうか」
大将の浦山実が、残念そうに肩を落として言った。
「みんな二本負けやなんて、ホンマ情けない話しやなァ。格好悪いで」
先鋒の不田が悔しそうにグチをこぼした。
「初めての試合やもんね。仕方ないわよ。これからまだ先が長いんやから、そんなに気にしなくてもいいわよ」
額の汗を拭きながら、次鋒の真実子が力強く言った。
「そうや。草山さんの言う通りやで。初めての試合なんやから、緊張してしもうて実力が出せなんだだけや。なあ、あしたからまた練習をやろうや」
副将の石坂勇二が、浦山の肩を叩いて言った。
「けど、草山さんのあの抜き胴だけはスゴかったわァ。見事に抜けたから、アタシ、ものすごう感動したわ。あんなん、見たのは初めてよ」
恵が両手を固く握りしめて、真実子を褒めた。
「ありがとう。相手が打って来るのが見えたから、とっさに出たんやけど、思ったよりもきれいに決まったわね」
この敗戦については何も言えなかった。相手の実力は、明らかに違っていた。海山チームは人数を並べただけの、未熟な急造チームであったのだ。
『自分が一本を取りたかった』と大いに悔が残った。あの時、相手がコテを狙って打ってきた時、その竹刀を打ち払ってメンをビシッと打った。『決まった』と思ったが、旗は一本しか上がらず得点とはならなかったのだ。
大阪から来た二郎。尾道から来た真実子。そして二年生の二人は中学時代の剣道部員である。つまり、和歌山県内の高校剣道を知っている者は、海山高校には誰も居なかったのである。
 

  

つづく


タリンの修道院には・・・
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気まま旅『北海道編 その二』M38泉谷忠成


北海道の中央に位置する大雪山系 層雲峡 銀河の滝など若かりし頃のサイクリング、今ではムリムリ、楽しい思い出です。数年前、家内と紅葉の季節、快適なドライブを楽しみました。

更に、北海道を実感できるものとしては、360度見渡せる中標津の「開陽台」又、最近話題として取り上げられるようになってきた、縦横まっすぐなほぼ信号なしの直線道路だと思います。スピードの出しすぎは怖いですよ。車に鹿、何が飛び出してくるかわかりません。

札幌では「アカシアの雨がやむとき」で有名になった札幌(南郷通他)のアカシア並木ですが、親父がここ住之江のアカシア並木が日本で一番古くからあった、と聞きました。

私が育った時には全く姿を消していました。大阪は緑少なく、何か寂しさを感じています。
もっと情緒が欲しいですね!




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2018年11月27日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(81)

その一 異郷の空へ(81)
 

翌日より地区大会に向けての練習に入った。総掛かりで試合を想定した練習をするのだ。それは、試合規則を知る為に絶対的に必要なのだった。
 不田と井仲は試合は初めてなので、試合上の礼儀・作法の全てを一から教えなければならなかった。難しくはないのだが、重要な作法であるのだ。
「礼をする時は提(さ)げ刀よ。もう少し頭を下げて」
「前へ出る時は、帯刀(たいとう)して大きく三歩よ。下がる時は小さく五歩よ」
「蹲踞したら、もっと胸を張って! 」
「ホラ、そこの白線から出たら場外反則よ。二回の反則で相手の一本になるから、気をつけるのよ」
「ええか、竹刀を落とすなよ。それも反則やぞ」
部員たちは声を掛け合いながら頑張った。上級生の二人もナンの文句も言わずに、素直に指導に従った。
 そんな中で、ふと見た真実子の表情が、実に美しく見えた。端正な顔がキユッと引き締まり、ツンと伸びた鼻が光ってる。切れ長の瞳はキラキラと、闘志を秘めて輝いているのだ。
『うわっ! なんで、なんでこんなに綺麗なんや』思わずドキッとした。
 選手六人。そして池上恵と片山美紀を加えた八人は、大会の当日、道場に集合した。揃って大会会場のある和歌山市へ向かった。晩秋にふさわしい晴天となり、初陣を飾るべく、意気揚々として体育館へ入った。
 集合した選手の中で、紅一点の草山真実子の姿は一際光っていた。黒か紺色ばかりなので、白の胴衣と赤の胴は正しく一輪の花であった。視線が一斉に集中した。
「オイ、見てみい、女の選手がおるぞ! 」
「なんやて? 女やて? 女なんかが、試合に出られるんか? 」
「知るかいな! けど、ほら、そこに居るやないか」
「うわっ! ほんまや。女や。いつから女が試合に出てもええようになったんや。お前、知ってるか? 」
「知らんで。女が剣道をやるぐらいやから、不細工なんとちゃうか? 」
「そんなことあれへんわ。えらい可愛いで。ホラ、見てみいや! 」
突然の女子剣士の出現に大いに驚き、ざわめいて列が乱れた。だが、そんな騒ぎの中でも、彼女は平然として前を向いていた。


  

つづく


まったりと・・・
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posted by はくすい at 16:19| Comment(0) | 虹のかなた