2018年08月02日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(56)

その一 異郷の空へ(56)
 

 昼の休憩時間。不田と井仲の二人は、弁当を食べると黙って席を立った。いつもは何かと騒々しいのに、静かに教室から出て行ったのだ。
『これはおかしい。絶対、ナニかあるぞ! 』ピン! と感じたので、気付かれないように二人の後を追いかけた。
 廊下を通って、隣の校舎の方向へ歩いて行く。あの小うるさい二人が妙に黙って、振り返りもしない。校舎から出て裏庭の方へ廻り、大きなポプラの木の下でやっと立ち止まった。木立の中の見えにくい場所である。付けられているのを、全く気が付いていない。何という間抜けな連中なのか。
『アホな奴らやなあ・・・』鼻の先で笑った。二人はポプラの根元へ座り込むと、ズボンのポケットからタバコの箱を取り出した。そして慣れた手つきで口にくわえた。まさにマッチを擦ろうとしたその刹那、待ってましたとばかりに、大声で叫んだ。
「タバコ、吸うたらアカンで! 」
突然フイを突かれたのと、声が大きいので二人は驚いて飛び上がった。慌ててタバコをズボンのポケットにねじ込み、うろたえながら声の主をキョロキョロと捜した。実に滑稽な場面だ。そこへ横から姿を現わした。
「ナッ! ナンヤ。山ノ上やないかい! びっくりしたなあ・・・。このアホッ! なんで付いて来たんや。ワイらを脅かすつもりか! 」
「そうよら。ワイらを先公に付き出そうと思うとんのか! そんなん、卑怯やないかい! そんなにええ顔がしたいんか! 」
「このガキ、いてもうたろか! 」
声の主を二郎と知って安心したのか、掴みかからんばかりに迫ってきた。
「まあ、待ちいや! 」
大声で叫んだ。そして行動を阻止するように、両手を大きく広げた。その勢いに押されたのか、二人は立ち止まった。
「ボクは、告げ口なんかせえへんよ。そんな卑怯なマネなんかするもんか。それより、そんなに元気が余ってるんやったら、クラブ活動で運動をやれへんか? 汗を流したら、気持ちがええで。健康的やしな、どうや? 」
「ナニ? クラブ活動やと? アホなことぬかすな! ワイらはな、自由が好きなんじゃ。そんなモンに束縛されへんのじゃ! 」
「そうよら! 野球やサッカーなんかはキライなんじゃ。ルールとか規則とか、うるさいんじゃい。ほかに、もっとええもんがあると言うんか! 」
顔をそむけながら、憎々しげに言葉を吐いた。
「あるよ、あるある。ボクが創った剣道部が有るよ」
「剣道? なんじゃそら。あんな古くさいモン、どこがええのや!」
「そうよら。あんなチャンバラなんか、どこがおもろいねん! 」
口を揃えて反撃した。
「それが面白いんやで。相手の頭を思いっきり叩いたら、気分がええで」
「アホかっ! あんなモン、誰でも叩けるわい。簡単なもんやないけ。動きは遅いし、長い棒を持ってるんやからな」
「そうよら。ワイでもお前より強いか分からへんぞ。ワイは子供の時はな、チャンバラが強かったんじゃ」
あくまでも減らず口を叩く二人に対して『ナニも知らない者は、態度だけはデカイな』と苦笑した。そこで計画通りにけしかけた。
「それやったら、ボクと剣道で勝負してみようか? 」
「おう、やっちゃる。やっちゃらよう。お前なんかに負けてたまるもんか」
「その通りや。お前なんか、ボカボカにやっつけたるで! 」
「放課後に道場へおいでよ。その代わり、タバコの件は黙っておくよ」
「よし、分かった、行っちゃるで! 」
二人にすれば、海山道場へ行くだけでタバコの件は無くなるのだから、随分と好都合である。その上、その場で二郎を屈伏させれば、自分たちの立場がはるかに優位になる。だから、渡りに船、と誘いに乗ったのである。何も知らないで・・・。
『これで思い通りになった』と腹の中でほくそ笑んだ。間抜けな二人は、策略に見事に引っ掛かったのである。

  

つづく


石切夏越大祓い神事(A31津田義貞氏の撮影)
6月30日 石切夏越大祓い神事.jpg
posted by はくすい at 13:04| Comment(0) | 虹のかなた