2018年08月09日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(58)

その一 異郷の空へ(58)
 

不田は竹刀を両手に持ち、まるで野球のバッターの様に横に構え(?)た。 不田は遮二無二打って出た。剣道を知らないのだから、動き方が無茶苦茶である。大きくブンブンと振り回したり、片手で時代劇の役者のようにと、仲々忙しい。とにかく、やっつけてやろう、と必死になって、竹刀を力任せに振り回しているのだ。
 そんな竹刀の先ほども、到底当たる筈がない。不田の竹刀をヒョイと交わしたり、竹刀の先で受け払っている。そしてその度に『そら、メンだ』『ホラ、コテや』『ドーや』と打っている。不田を懲らしめるのが真の目的では無いので、軽くあしらっているだけなのだ。
 軽快な動きに翻弄され、不田は興奮し激高するが、思い通りに動けない。額の汗が目に入って、恐ろしく痛い。今までに無い痛さだ。思わず足を止め瞼を閉じると、又もや連打されるのだ。今日初めて面を付けたものだから、これも又、息苦しい。
ものの二分間の時間も持ち堪えないで、不田はその場にヘナヘナとへたばってしまった。慌てて井仲がそばへ掛けより、紐を解き面を取った。
 不田は床の上に座り込み、ゼーゼーと荒い息をしている。顔が歪んで、とても苦しげな表情である。背中から出た汗が、体操服をぐっしょりと濡らしている。額の汗も大粒である。
「どうや、剣道って面白いやろ。ボクと一緒に練習せえへんか? 」
息のひとつも乱さずに、平然とした姿勢で言った。
「アホぬかせっ! こんなにシンドイのに、どこがおもろいねん! もう、ええわ! 」
右手を大きく振って、拒否をした。
「そうか。そんなら井仲君、今度はアンタが代りにやるんか? 」
「えっ・・・! いや、ワイはええ、ええのんや。遠慮しとくわ」
井仲は慌てて両手を振った。
「けど、子供の時、チャンバラが強かったって言うてたやないか」
「いや、あれはウソや、ウソやったんや。そんなこと、ないんよら! 」
狼狽(うろたえ)えて言った。負け犬はシッポを巻いて、逃げの一手でしかなかった。
 事の成り行きを、固唾を呑んで見ていた池上恵は、大きく溜飲を下げた。こんなに面白いゲームを見るのは初めてだった。今迄の気持ちがパーッと晴れた。思わず拍手で勝利を祝おうとしたが、深刻な二人の表情を見て、やめにした。
「なあ、不田君と井仲君。ここで、ボクらと一緒に練習をやろうや。今からでも遅くはないし、池上さんもやると言うてくれてる。そやから、お互いに頑張って汗を流そうや」
「そ、そない言うてもやな、ワイらはナンも知らんし、でけへん。どないしたらええのか、それもさっぱり分からへん」
「そやから、ボクが教えてあげるよ。最初は素振りから始めるんや。あんまり面白くないけど、なんでも基本が大事なんや。まあ、頼むわ、な」
「う・・・、うん」
二人はシブシブ入部に同意した。すぐさま入部届けの用紙を出し、二人に署名させた。半ば強制的であったが、気持ちが変わらぬ内にしておかねばならなかったのである。
 不田と井仲は同じ中学だった。同級生では無かったが、悪さ同志でつるんでいたのだ。高校で同級となったので大いに喜んだ。
 二人はクラスを仕切るつもりだったが、級長の板頭がしっかりしていたので、そうはならなかった。
 自分たちの体面を保とうと考えていた矢先、二郎が転校して来たのだ。この男を傘下に引き込めば、少しは有利になるだろう、と都合よく考えた。
 だが、彼らの甘い目論見(もくろみ)は、ものの見事に、木っ端微塵に打ち砕かれてしまった。それも、たったの一撃で。
 それが二郎に対する憎しみの始まりである。全く理不尽な話だが、被害意識を感じていた。その後、その悔しさをどうにかしたい一念で、チャンスを伺っていた。今度は反対に、相手の方から挑戦して来たのだ。そして、見事なまでに、戦術に載せられてしまった。揚句の果てに、またもや足下に組み敷かれてしまったのだ、
 
 
  

つづく



夜になると近所の野良猫が涼みに・・・
IMG_E4948[1].JPG
posted by はくすい at 14:34| Comment(0) | 虹のかなた

8/12(日)有段者剣士母校に集う!

昨日は週に1度のレディースdayexclamation
何のかと言うと、映画です^^
『Mr.インクレディブルU』と『ジェラシックワールド』の2本観て来ました。
水曜日の平日にかかわらず、夏休みもあって人も多かったですが、2本とも字幕でしたので(娘の希望)スキスキでしたわーい(嬉しい顔)

今週末からお盆休みに入る方も多いと思いますが、白水会事務局はお休み無しで14(火)16(木)は在席してま〜すexclamationその代わり、8/28(火)にお休みを取らせて頂きます。

8/12(日)9時〜11時は剣道部OBが母校の剣道場に集まり、後輩の指導&練習会を開きます。
剣道部OB・OGの方はは是非、参加下さい。



CIMG8672.JPG


posted by はくすい at 14:20| Comment(0) | ご報告

2018年08月07日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ(57)

その一 異郷の空へ(57)
 

放課後、池上恵を伴って海山道場へ行った。恵にとって初めて見るこの道場は、想像以上に心躍る建物であった。もっと古くさくて、湿気臭いと思っていたのだ。それが、こんなにも明るくて広々した道場であったとは、思いもよらなかったのである。
「いいわねえ・・・。山ノ上さん、ウチ、ここで頑張ってみたいわ・・・」
「そうやろ、そう思うやろ。ボクも頑張るで。これから先、ずーっとな」
恵は道場の中を、物珍しそうに歩き廻った。板の上を歩く、素足の足裏の感触が新鮮で気持ち良い。
 しばらくすると、不田と井仲がやって来た。約束通り体操服に着替えている。二人は道場に入るなり、
「ホウ! これはええなあ」
感嘆の声を挙げた。そして、不思議そうに辺りを見渡している。
 池上恵は二人の姿を見るなり、急に顔を曇らせて傍へ駆け寄った。何か、飛んでもない事が起きそうに思えたのだ。
「あんたらはナニよ! ナニしに来たんよ・・・。また、山ノ上さんをいじめるつもりやの? 」
恵は二郎の腕にすがりながら、必死に叫んだ。以前、二郎を校舎の裏へ連れ出した事を、今、思い出したのだ。
「いや、ちゃうで。ワイらは山ノ上に、ここへ来いと言われたんや。そやから、何もせえへんで」
大きく手を振って、不田月男は弁解した。それを受けて
「そうやで。ボクが頼んだんや。そやから、そない気にせんでもええよ」
と言ったので池上恵は内心ホッとした。だが掴んでいる腕は放さなかった。
「今日はな、ゲームをするんや。面白いでェ。それを良うく見といて欲しいんよ。それで池上さんに、ちょっと手伝ってほしいんや」
『えっ! ゲームをするって? いったい、ナニをするんやろ』恵は不思議に思った。その時、フッと二郎の腕から恵の手が離れた。
 体操服の上に防具を着けた。そして恵に手伝わせて、兄貴分の不田に防具を着けさせた。昔の先輩たちが残してあった、古い防具である。
「なんやこれ、えらい古くさいやないかい。汚ないんとちゃうか」
「大丈夫やで。ボクがこの前、ちゃんと洗ったんや。きれいなもんや」
「ほんまかいな、それ。そんなん、信じられるか! 」
グズグス言いながらも不田は防具を身に着けた。面をかぶせようとすると
「ムッ、オイッ、ちょっと臭い。ヘンな匂いがするぞ。それにやな、息が苦しいし、前が見えへんで」
文句ばかりを言っている。
 用意が整い、道場の中央で竹刀を持って向かい合った。
「なんやこれ、えらい重たいなあ」
まだ文句を言っている。
「さあ、どこからでもええよ。掛かって来いよ。打ってきたらええで」
「ようし。ええか、ホンマやなあ。ケガをしてもワイは知らんで」


  

つづく




鰯のマリネ作ってみました。手開き何匹・・・(^^;
IMG_0001[1].JPG

posted by はくすい at 16:35| Comment(0) | 虹のかなた