2018年07月10日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㊿

その一 異郷の空へ㊿
 

三日目になると、稽古着が酷く汗臭くなった。汗で濡れ、一晩中干しても乾かない。それに、塩の結晶が縞模様となっている。
 生乾きの稽古着を再び着る時の、気持ち悪さは酷いものだ。自分の汗が原因なのだから、避ける訳にはいかない。
 そこで一考した。汗を吸った稽古着なら、洗えば良いのだ。水で濡れている方が、よっぽどマシであるに違いない。そう思った。
 夕方の練習後、稽古着を洗い場で洗った。水を流しながら、両足で交互に踏みつけて洗った。その行動に気付いた部員たちも、見習って洗った。そしてワイワイと言いながら、ギリギリと絞り合った。
 案の定、一晩干しても半乾きだが、見事に匂いと塩分が消えていた。それが随分と気持ち良かった。
 五日目の午後。古山先生の発案で、三年生を除く全員で部内試合をした。一年生の部では、例の三人を含めて六人となった。
 嬉しかった。そして大いに燃えた。高校生となっての初試合なのだ。これは二郎の実力を試そうとする、先生の差し金である。
 試合の結果、三勝一敗一引き分けとなり、二位となった。例の三人だが、角山には惜敗したが山渕には快勝し、坂寺とは引き分けた。自分の思った以上の成績だった。
「イヤーッ、山ノ上君。アンタは強いなァ。ワイは見事にやられたで」
汗を拭きながら山渕が話し掛けてきた。
「いや、まぐれで勝てただけやで。ボクのコテより、アンタのメンの方が早かったと思うけどなァ」
少し謙遜して答えた。確かに、山渕に『メンを打たれた』と思ったのだが、同時に放ったコテの方に旗が上がったのだ。
「なんで、あそこからメンが打てたんや! オレには出来へんで」
「あの抜き胴は最高やで。足捌きがええんやな。スッと横へ動いたもんな」
「いやいや、あの二段打ちが良かったで。むっちゃ早いし、打ちが強かったから、オレは除けられへんかったで」
お互いの健闘を讃え合った。そんな様子を、横からジッと見続ける熱い眼差しがあった。その主はマネージャーの長岡奈々子であった。


  

つづく


今年も夜空を飾る花火大会が近づいてきました!どこのを観に行こうかな?
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posted by はくすい at 16:06| Comment(0) | 虹のかなた

2018年07月05日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㊾

その一 異郷の空へ㊾
 

次の日。前日と同様に起床した。外へ出ると、良く晴れているが、強い光はなかった。道場を裸足で歩くと、冷たい板の感触が足の裏に心地良い。
 昨朝の再現を期待した訳ではないが、何か気を惹かれたのだ。人の気配など全く感じられない。射し込む光もずっと鈍くて、眩しくはなかった
食堂のテーブルには、四角いお盆に載った朝食が並んでいた。昨日と同様に、二列目の端に座ろうとした時
「山ノ上さん。こっちよ! 」
女性の声がした。驚いて奥の方を見ると、あの白い女の子、長岡奈々子が手招きをしていた。
『どこでもええんや』と思ったが、彼女が示した列の端へ行った。
「さあ、どうぞ! 」
ニっコリと笑みを浮かべて、席を勧めた。
 料理はハムエッグである。皿を見ると、何かボリュームが大きかった。目玉焼きは卵が二つだし、ハムも四枚だ。向かい側の皿をソッと見た。そこには卵一つとハムが二枚だった。
 食べ始めていると、奈々子が大きなヤカンでお茶を注ぎに来た。そこで
「あのう・・・。これ・・・」
目で示すと、彼女は『シッ! 』と唇に指を当て乍ら一瞬
「これはアタシが焼いたのよっ! 」
肩を抱くような仕草で、耳元に囁いた。
「えっ! なんで? 」
驚く顔を尻目に、そ知らぬ顔でお茶を注いだ。そして顔を向け右目でウインクをした。それを見たとたん、カーッと顔が熱くなった。額から汗が噴き出し、心臓がドキドキと鳴り始めた。奈々子は黙ってその場を離れた。
 こんな彼女の怪しい行動を、誰も気付かなかったのだろうか。


頂いたウメイロで刺身、アラ汁、兜焼 美味でした!(内臓と鱗を取って1日寝かしてから調理)
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posted by はくすい at 16:04| Comment(0) | 虹のかなた

2018年07月03日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㊽

その一 異郷の空へ㊽
 

夜の自由時間になると、同じ一年生部員たちとの会話が楽しみであった。初段を持っている山渕・坂寺・角山の三人は、顧問の古山先生から乞われて入学したと言った。そう、加藤から聞いたあの話である。
 この三人は、二郎の腕をかなりなもの、と踏んでいた。勿論、直接に対戦した訳ではないが、三年生との激しい稽古を見たので、そう思ったのだ。
「アンタが剣道部を創ったら、強いチームになるやろなあ。県大会で試合して見たいと思うで。そやけど、こっちは三人やし、アンタは一人やから、どうしてもウチの勝ちやな」
山渕が自信気に言った。
「そんなん、分からへんで。ボクのチームはこれからや。強い者(もん)を、ようさん集めるんや。今年はアカンやろけど、来年はええ線行くと思うよ」
素直に言った。少し生意気だが、この場合、仕方あるまいと思った。
「山ノ上君、十月に昇段審査があるで。ワイらは二段を受けるんやけど、アンタはどうするん? 」
坂寺が問いかけた。当然、受験するつもりなのだ。
「うん、知ってるで。ボクも受けたいと思うてるんや。けど、それまでに練習出来るかどうか、分からへん」
「そうやで。受けとかなアカへんで。後で後悔せんようにせなアカンのや。三年生はもうすぐ引退やけど、みんな三段を受けると言うてはったからな。ワイは絶対、二段を貰うつもりや」
山渕が熱っぽく言った。
 この山渕健吾という男を気に入った。喋っていても気が楽だし、変に畏(かしこ)まった処も無い。腕前は同レベルだろう。これからも剣道の友として、長く付き合えれば良いな、と思った。学校は遠く離れていても合同稽古等で会えるだろうし、それに依り学生生活が楽しくなるだろう。フッと良い気分になりかけたその時、横から角山が口を挟んだ。
「ウチのマネージャーの女の子、可愛いやろ! そう思えへんか? アンタの学校には、あんなベッピンなんか居らへんやろ」
「うん。そうやなあ・・・」
言葉に詰まった。転校してから、まだ二ヶ月。だから今、海山高校には、どのような生徒たちが居るのかは、良くは知らないのだ。
 確かにマネージャーは可愛いかった。容姿は勿論、声までも可愛いのだ。同じクラスの池上恵と比べると『可愛さ』では格段の差があるのだ。
『池上さん、ゴメンなっ! 』心の中で謝った。
「あの娘(こ)はナ、長岡奈々子と言う名前なんや。名前まで可愛いやろ。クラブのマドンナやねんで。あの子がワイらを応援してくれるよって、精一杯頑張れるんや。ホンマやで」
角山の言葉に、確かにそうだと思った。
 

  

つづく




ストロベリーイチゴムーン
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posted by はくすい at 16:44| Comment(0) | 虹のかなた