2018年06月05日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へ㊶

その一 異郷の空へ㊶
 

 月曜日の朝早く、母に見送られて出発した。久し振りに防具袋に竹刀を通し、担いで歩くのが、とても気分が良かった。
 紀伊田辺の町は海山高校とは反対の方向で、由奈の町から南へ、汽車に乗って約一時間ほどの行程であった。
 由奈駅に着くと、まるで待っていたように汽車がホームに停まっていた。乗り込むと同時に汽笛が鳴って、列車がガタンと動き出した。
 進行方向の右側の席に座った。つまり海側である。早朝なので乗客が少なくてガランとしている。窓を全開にして、海からの風を体一杯に受けた。時折、機関車が吐く煙とススが風に乗って入ってくるが、それよりも、田舎の海岸の空気が実に爽やかだった。
 やがて目的の紀伊田辺駅に着いた。そこから徒歩で十分ほどの処に出島商業はあった。沢山の樹木に囲まれている姿を見て、この学校も歴史が古いだろうと感じた。校門を通り、安田先生から教えられた通りに行くと、体育館があった。この体育館の隣りに格技室がある。中は二つに分かれており、剣道場と柔道場である。
 『剣道場』と看板が掲げられている入口の処に、数人の姿が見えた。相当な緊張を覚えながら
「コンチワーッス! 」
歩きながら大きな声で挨拶し、帽子を脱いで頭を下げた。
防具袋を担いだ見知らぬ他校の生徒が突然挨拶をしたので、部員たちは怪訝な顔をしたが、すぐに挨拶だけはしっかりと返してくれた。
「ボクは、海山高校の山ノ上と申します。ウチの安田先生から、こちらの古山先生をお尋ねしなさいと言われたので、来ました」
「ああ、そうですか。分かりました。さあ、どうぞ」
一人の部員が快く道場へ招き入れてくれた。一礼して道場へ入るなり、目を見張った。そこは見るからに立派な道場であった。伝統ある大阪の泉川高校の道場に、勝るとも劣らぬ程に床面の手入れが出来ているようだ。それに、部員の数も結構多いように思えた。
「どうぞ、ここで着替えてください。先生はもうすぐ来はります」
部長らしき男が丁寧に言った。礼儀に対する教育が良いのだろう。


  

つづく



水無月・・・いろんな紫陽花をお送りします
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posted by はくすい at 16:05| Comment(0) | 虹のかなた