2018年01月25日

M35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へK

その一 異郷の空へK
 
「ううん、ええのんよ。お父さんは、まだまだ頑張ると言うてはるし、これから先の事も、そんなに悲観する事はないと思うのよ。けど・・・、このお家(うち)はもう、人手に渡ってしまっているから、ここを出ないとあかんのよ。二郎ちゃんは、お母さんの実家へ行く事になっているのよ。今の学校に行けなくなるから、大変申し訳ないと思うけど、高校もちゃんと卒業して欲しいし、大学へも行って欲しい。剣道も、もっと強くなってほしいのよ」
「そやけど、そんなん、心苦しいわ。それで、お父はんはどうするんよ」
「お父さんは、大阪に残りはるって。アパートを借りて、そこで一人で生活するって言うてはる。仕事も頑張らなあかんし、整理する事がいっぱいあるのんよ。そやから二郎ちゃん、アタシと一緒に田舎へ行って・・・。ね、オネガイ・・・」
母の目から大粒の涙が流れた。母の涙など、一度も見た事がなかった。それだけに余計に辛くなった。
「それでお母はん。何時、田舎へ行くんや? 」
「お家(うち)の明け渡しが、今月いっぱいなんよ。そやから、それまでに・・・」
月末まで十日余りしかない。時間がないのだ。
 
頭の中が分解するほど混乱した。つい先日の四月に泉川高校に入学し、あこがれの剣道部に入った。ようやく加本賢一と浅田幸夫という同僚とも仲良くなれた。その上、再来週の日曜日には全国大会の大阪府予選が迫っているのだ。これから・・・という時期であるのに、どうして自分だけが、何故、自分の家庭だけが、こんな不幸な運命に合わなければならないのだろうか。目の前に里子が居なければ、思いっきり大声を出して叫びたかった。胸につかえている黒い大きな塊を、精一杯吐き出したかった。だが、それが今、出来ない自分が悔しかった。そう思うと目頭が熱くなり、ひとしずくの涙が膝の上に置いた手に落ちた。

  

つづく


posted by はくすい at 15:40| Comment(0) | 虹のかなた

2018年01月23日

風の便り(E科)

先日1/21は前田中会長の一周忌でした。時の流れるは早いものですネ、黙祷を捧げたいと思います。

関東では大雪による積雪で交通がマヒしているそうですが、大阪はやはり雪は積りませんでした。



  埼玉にいる娘から写真が届きました。
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E(電気科)の方々です

44三木啓至・・・また総会(電気科)よろしく!

E46佐喜真正行・・・体操部でした

E平4桑田勝弘・・・入社して寮先に常駐となり、『君も泉工か!』と可愛がってくれた寮先の先輩達もどんどん定年退職され、一抹の寂しさを感じます。


posted by はくすい at 11:35| Comment(0) | 通信だより

Ⅿ35宮坂正春氏 執筆の青春小説『虹のかなたへ』連載開始!その一 異郷の空へJ

 その一 異郷の空へJ
 
 二郎の父・武二郎は、今から約八年ほど前に、友人二人と資金を出し合って、小さな商事会社を設立し、大阪市の西区で営業していた。戦後の復興の波に乗り遅れまい、として始めた事業である。当初は売り上げが泣かず飛ばずで、決して楽ではない経営状態が続いていたのだが、すぐに勃発した朝鮮戦争がきっかけとなり、軍需景気で日本中の産業が沸騰した。武二郎の会社もその波に乗り、多分に売り上げを伸ばす事が出来たのだ。事業は大きく成長し、従業員たちも二十人以上となって、武二郎は社長となった。何もかもが順調であった。二郎が剣道を始めたのもその頃で、剣道の防具一式を買って貰えたのもこの頃であった。

 戦後も十年を過ぎ、大都市などでは順調に復興が進んでいる。新聞紙上などでは『もう戦後ではない』と言うような大見出しが、良く見られるようになった。国鉄の東海道本線では特別急行列車も復活し、特急『つばめ』『はと』が快速を誇っていた。だが、その後、朝鮮戦争は僅か三年足らずで終結してしまった。一度大きく膨らんだ景気の風船が、一瞬の間にしぼんでしまったのだ。アメリカによる軍需景気に『わが世の春よ』と浮かれていた産業人は、壊滅的な打撃を受けたのであった。 
大企業ならば耐え得たであろうが、父親の会社のような新興の小会社などは、その津波をモロに受けてしまったのだ。売り上げは下降線を辿る一方となり、給料まで遅配となった。そんな会社にイヤ気を差したのか、従業員が一人、二人と離れて行き、今はもう事業開始時の三人だけになってしまった。その上、悪い時には悪い事が重なるもので、知人の融資の保証人になった事が原因で、その知人の借金までも武二郎一人が負うハメになったのである。両親のヒソヒソ話の場面を目撃したのは、この事件だったのだ。
「それでお母はん。これから先、どうするのん? ボクは学校を辞めて、働いてもかめへんのやで・・・」
大変なショックだった。今迄、両親の苦労など全く知らずにいた自分の呑気さが悔しく、精一杯の言葉を口に出したのだ。

  

つづく


posted by はくすい at 11:20| Comment(0) | 虹のかなた